なぜ帝王切開になるの?主な理由と原因をわかりやすく解説【医師監修】

出産方法は大きく分けて「経腟分娩」と「帝王切開」の2種類あり、多くの人がイメージする出産は経腟分娩でしょう。出産を意識した妊婦さんのなかには、帝王切開になる理由はなんだろう?と思う人も多いはず。
この記事では帝王切開になる理由と原因について解説していきます。妊娠中の妊婦さんの経過や出産時の赤ちゃんの状態によっては、緊急で帝王切開になることもあります。いざという時の参考に役立ててください。
1. 帝王切開とは?基本的な理由と判断基準

帝王切開とは経腟分娩が困難と医師が判断したときに、手術によって赤ちゃんを母体から取り出す方法です。
帝王切開には妊娠中の経過から事前に予定されている「計画帝王切開」と、予期せぬ事態が発生したことで緊急におこなう「緊急帝王切開」の2つがあります。
計画帝王切開は胎盤の異常や双子以上の妊娠、帝王切開の既往がある場合など、経腟分娩でのリスクが高いと妊娠中から分かっている場合に選択される出産方法です。ほとんどが出産予定日よりも早い妊娠38週前後に手術の予定が組まれます。
対して緊急帝王切開は、急に赤ちゃんの元気がなくなる、陣痛が弱くなかなかお産が進まないといった予期せぬ事態が起こったときに、医師が必要だと判断された場合に急遽おこなわれます。緊急帝王切開では急な出産方法の変更から、赤ちゃんは大丈夫か、急な手術への不安など、ママは気持ちの生理がつかない状態での出産となるでしょう。しかし医師が最善の方法として緊急帝王切開を選択しているため、赤ちゃんの無事を祈って母子ともに乗り切りましょう。
2. 帝王切開になりやすい状況・主な原因:胎児の状態

出産はなにが起こるか分かりません。そのため医師は母子ともに安全な方法を検討し、出産方法を決定します。帝王切開での出産には、いくつかの要因があります。ここからは帝王切開になる赤ちゃん側の要因について解説していきます。
1) 骨盤位(逆子)
赤ちゃんが逆子だと、経腟分娩では赤ちゃんがうまく産道へと出ることができないことがあります。たとえば逆子で子宮の入口付近に足がある場合、片足は産道へと出ているのにもう片方の足は子宮に残った状態になることがあります。このままではお産が進まないだけでなく、赤ちゃんの骨折のリスクが高くなってしまうのです。ほかにも赤ちゃんのおしりが子宮の入口でひっかかってしまうこともあります。
このような危険を回避するために、逆子の場合には帝王切開が選択されることが多くなってきました。
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2) 児頭骨盤不均衡
児頭骨盤不均衡とは赤ちゃんの頭が大きい、もしくはママの骨盤が狭いことから、出産時に赤ちゃんが骨盤を通過できない状態です。児頭骨盤不均衡は妊娠中に分かることが少なく、お産がなかなか進まないことから判明することが多いといわれています。
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3) 胎児発育不全・胎児仮死
胎児発育不全はなんらかの理由で赤ちゃんの発育が遅れたり、停止してしまったりした状態です。経腟分娩での出産は赤ちゃんに負担が大きいと判断されると、帝王切開になることがあります。
胎児仮死はへその緒の圧迫や胎盤の機能低下などが原因で、赤ちゃんの酸素不足や心拍に異常がみられる状態のことです。胎児仮死は早急な救命処置が必要なため、緊急帝王切開で速やかに母体から赤ちゃんを取り出す必要があります1)。
3. 帝王切開になりやすい状況・主な原因:母体の状態

ここからは母体の状態によって帝王切開になる場合について解説していきます。
1) 妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群の方が経腟分娩をすると、出産中の激しい血圧変動から子癇(しかん)とよばれるけいれんや脳出血を起こすリスクが高いといわれています。母子の安全を守るために帝王切開を選択することが多いですが、血圧が安定していて出産に問題がないと医師が判断した場合には経腟分娩になることもあります2)。
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2)妊娠糖尿病
妊娠糖尿病があると、赤ちゃんは巨大児になりやすいといわれています。巨大児は経腟分娩での出産がむずかしく、帝王切開による出産になるケースが多いでしょう。
そして妊娠糖尿病の方が経腟分娩をすることで、腎症や網膜症が悪化することがあります。これらの理由から、妊娠糖尿病の方は帝王切開での出産になることも多いのです。
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3)高齢出産
高齢出産自体が帝王切開になる原因ではありませんが、母体の年齢が上がるとお産の進みが遅かったり、妊娠中に合併症を併発することがあります。これらの理由から、高齢出産では帝王切開になる可能性が高まるのです。
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4)多胎妊娠
双子以上の多胎妊娠だとお産がスムーズに進まないケースが多く、計画帝王切開を予定する場合がほとんどです。経腟分娩をした場合のリスクは、へその緒が赤ちゃんより先に出てしまう臍帯脱出(さいたいだっしゅつ)や胎盤が先にはがれてしま常位早期胎盤剥離、大量に出血する弛緩出血(しかんしゅっけつ)などです。これらにより母子ともに危険な状態になることが考えられます。
5)子宮筋腫
子宮筋腫とは、子宮のなかにできる良性の腫瘍のことです。子宮のさまざまな部分にできるため、できた場所によっては産道を塞いでしまったり、お産の際に赤ちゃんが通るのを邪魔してしまうことがあります。また、妊娠中に筋腫が邪魔して、赤ちゃんの向きが経腟分娩に最適な頭位をとれないことがあるのです。
子宮筋腫をもつ妊婦さんすべてが帝王切開になるわけではありませんが、大きさや位置から医師の判断で帝王切開になることがあります3)。
6)前置胎盤・常位胎盤早期剝離
前置胎盤とは、胎盤が子宮の入り口を覆ってしまう状態のことです。
常位胎盤早期剝離は、分娩後に子宮からはがれるはずの胎盤が先にはがれてしまうことです。胎盤がはがれると赤ちゃんへ酸素の供給ができなくなり、さらに大量に出血することがあり、母子ともに危険な状態にリスクが高い病気です。
このように胎盤になにかしらの異常がある場合に、リスクを避けて母子の命を優先するために帝王切開を選択します4)。
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7)子宮破裂のリスク
帝王切開の既往がある妊婦さんや、多胎妊娠・羊水過多などによって子宮が大きく引き伸ばされている状態の妊婦さんは、子宮破裂のリスクが高くなってしまいます。子宮が破裂すると母体は大量出血により危険な状態となり、胎児の死亡率も高くなってしまうのです。
事前に子宮破裂のリスクが分かっている妊婦さんに対しては、医師の判断のもと帝王切開が計画されます。
8)臍帯脱出
臍帯(さいたい)とよばれるへその緒は、通常赤ちゃんの後に続いて体外へと排出されます。しかし臍帯脱出では赤ちゃんよりも先に、へその緒が産道へと進んでしまうのです。臍帯脱出になるとなにかしらの原因で臍帯が圧迫され、赤ちゃんへ酸素の供給ができなくなってしまい命が危険になることがあります。そのため臍帯脱出がみられたらすぐに緊急で帝王切開をおこなうのです5)。
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9)難産
難産とは、産道の異常や微弱陣痛とよばれる陣痛が弱い状態が続くことなどの理由から、お産がスムーズに進まないことをいいます。母体側の原因のほかに、赤ちゃんがうまく産道を進めない赤ちゃん側の原因でも難産になることがあるのです。
難産でお産に時間がかかるとママの体力が徐々に消耗されていき、いきむ力がなくなってしまいます。産道を進もうと頑張っている赤ちゃんにとってもリスクが高く、医師の判断により帝王切開に切り替わる場合があるのです。
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まとめ:帝王切開は母子の安全を考えて選択される
緊急帝王切開になった妊婦さんは、心の準備が整わないまま手術を受ける方がほとんどです。術後もさまざまな感情から落ち込む人が多いといわれています。しかし帝王切開は母子の命を守るため、最善の方法として選択された出産方法です。出産方法に違いはあれど、ママも赤ちゃんも頑張って出産を乗りこえることに違いはありません。
これから出産を控えている方のなかには、出産にはなにが起こるか分からないという恐怖を持ってしまった方もいるかもしれません。しかしその時の状況をしっかりと判断して医師や助産師、医療スタッフが安全に考慮した出産方法を選択していくため、安心して出産にのぞみましょう。出産までに心配なこと、不安なことがあるときは、妊婦健診で相談して、お産に向けて気持ちを整えていきましょう。
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参考文献・参考サイト
1)日本産婦人科医会 胎児仮死(ジストレス)の診断・管理
2)日本産婦人科学会 妊娠高血圧症候群
3)日本産婦人科学会 子宮筋腫
4)日本産婦人科学会 前置胎盤
5)日本産婦人科医会 臍帯下垂・脱出
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長

経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。
