産後の貧血はなぜ起こる?~症状や改善、母乳への影響・対策まで徹底解説~【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

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産後の貧血はなぜ起こる?~症状や改善、母乳への影響・対策まで徹底解説~【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

産後の貧血はなぜ起こる?~症状や改善、母乳への影響・対策まで徹底解説~【医師監修】

 

産後は目に見えない体のダメージが大きい時期、産後貧血も注意したい体の不調の一つです。赤ちゃんとの新しい生活がスタートしても「貧血でなかなか育児が思うようにいかない」そんな状態が続くと、デリケートな産後の心にまで負担がかかってしまいます。

この記事では産後の貧血の原因や症状、改善方法を紹介し、ママが気になる母乳や育児への影響についても解説していきます。産後の貧血とうまく付き合うためにも、参考にされてください。

 

 

1. 産後の貧血はなぜ起こりやすいのか?

 

産後の貧血が起こりやすい理由は、以下の3つです。

 

出産時の大量出血

経腟分娩ではペットボトル1本分の500mlほど、帝王切開ではさらに多く1,000mlほど出血するといわれています。大量の血液が体外に出てしまうことで、産後は貧血になってしまうのです。

 

産前から続く鉄不足

鉄分は赤ちゃんが成長するために重要な栄養素です。そのため妊娠中は赤ちゃんに優先的に鉄分が送られます。妊娠中からママの体内の鉄分が少ない状態にくわえて、出産時の大量出血が起こることで産後は貧血が進行しやすいのです。

 

授乳による鉄分の消耗

母乳はママの血液から作られます。そのため授乳中は赤ちゃんが成長するために必要な栄養は、母乳へと優先的に運ばれます。貧血に深く関係している鉄分も、赤ちゃんの成長のために母乳に使われるため、ママの体内の鉄分が少なくなってしまうのです。

 

産後の貧血のピークは出産直後から数週間といわれています。しかし出産時の出血量が多かったり、完全母乳だったりすると長引くことがあります。

 

 

 

 

2. 産後の貧血の症状とは

 

【産後の貧血症状】
・立ちくらみやめまい
・疲労感・倦怠感
・息切れ・動悸
・頭痛

 

産後の貧血の主な原因である鉄分が不足すると、鉄分によって作られるヘモグロビンが減少します。ヘモグロビンは全身に酸素を届ける役割を持っているため、貧血になると酸素が体に十分行き渡らないことで倦怠感や動悸、息切れ、立ちくらみを起こしてしまうのです。

貧血であらわれるのは、体の症状だけではありません。貧血の状態が続くことで、産後うつを引き起こすリスクが高くなるともいわれています。産後のママは赤ちゃんの命を守るために常に気を張って生活をしています。さらに産後のホルモンのバランスが安定しないことから、多くのママがメンタル面になにかしらの不調を感じることが多いのです。そこに貧血が加わると、産後うつを発症する可能性が高くなります。

 

 

産後はついついママの体調や生活が後回しになることが多いですが、ママが倒れては元も子もありません。「体がつらいな」「ちょっと休みたいな」と感じたら、家族にサポートをお願いしたり、産後ケアや産後サポートの利用を検討したりしましょう。体調を優先することもママの大切なお仕事です。休んでも回復しない、つらい症状が続くといった場合は、貧血が悪化していることが考えられるので病院に受診しましょう。

 

 

3. 産後の貧血の診断基準

 

貧血は血液検査にて診断されます。WHO(世界保健機関)では、血液中のヘモグロビンの数値が10g/dl以下が産後貧血の診断基準だと定めています。

貧血の診断で最も一般的なのはヘモグロビンですが、ほかにも血液中の赤血球数やヘマトクリット(赤血球が血液全体に占める割合)、鉄分などによっても診断されます1)

 

 

4.産後貧血が母乳や育児に与える影響

 

産後に貧血になると、血液から作られる母乳に影響がでないか心配になるでしょう。また、体につらい症状が出てくるため、育児への不安を持つ人もいると思います。

 

母乳の質や量への影響

貧血になると、全身の血液の量に対して赤血球の割合が少なくなり「血液が薄い状態」になります。薄い血液から作られる母乳は、通常の血液から作られる母乳に比べて質が低くなることが考えられます。また、鉄分などの母乳を作る成分が不足することで、質だけでなく量が少なくなることもあるでしょう。

 

育児への支障

産後は慣れない育児に奮闘するママが多いと思います。しかし貧血があると体が疲れやすく、思ったように赤ちゃんのお世話ができないこともあるでしょう。赤ちゃんのお世話は、24時間休みがありません。産後の貧血でつらいときは、家族やサポートしてくれる人に頼んで、ママの体力の回復を優先しましょう。

 

産後は赤ちゃんのことが優先で、ママの体調や生活は後回しになりがちです。夜間授乳であまり眠れていない、食事を簡単に済ませるためにインスタント食品や菓子パンなどで済ませているといった生活は、貧血の回復に支障をきたすだけでなく、産後の体の回復にも影響を与えてしまいます。小さな命を守ることも大切ですが、同時にママ自身の体も大切に労わってあげましょう。

 

 

 

5. 産後貧血の改善・対策方法

 

ここからは産後の貧血を改善するための対策について紹介していきます。産後貧血の改善には食事と睡眠・運動が大切です。しかし慣れない産後の生活のなかで、すぐに実践するのはむずかしいかもしれません。無理はせず、できそうなことから少しずつ生活に取り入れていきましょう。

 

1)食事による改善方法

貧血を改善するために積極的に摂りたい栄養素はこちらです。

 

栄養素

効果

食材例

鉄分

鉄分不足を改善

レバー、あさり、カツオ、赤身の肉、ほうれん草、小松菜

ビタミンC

鉄分の吸収を高める

緑黄色野菜、キウイ、イチゴ、柑橘類

葉酸

赤血球を作るのに必要な栄養素

ほうれん草、小松菜、レバー

ビタミンB12

赤血球の形成に重要

レバー、魚介類、チーズ

タンパク質

鉄分の吸収を高める

肉類、魚類、卵、大豆製品

 

 

鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、体への吸収率が高いのがレバー、あさり、赤身などのヘム鉄です。ほうれん草や小松菜などに含まれる非ヘム鉄は、ビタミンンCやたんぱく質を一緒に摂ると吸収率が高まります。栄養面から貧血のケアをするときに大切なのは、貧血に効果があるとされる1種類の栄養だけをとり続けるのではなく、さまざまな栄養素をバランスよく摂ることです。紹介した食材をバランスよく取り入れて、毎日の食事から貧血を改善していきましょう。

 

そして貧血解消のために、避けてほしい食材もあります。それがタンニン、リン酸塩、不溶性食物繊維です。タンニンはコーヒーや紅茶、チョコレート、ナッツ類に、リン酸塩はソーセージなどの加工食品やスナック菓子、清涼飲料水など、不溶性食物繊維は玄米、おからに含まれています。産後ママが手軽に摂れる捕食としてチョコレートやナッツを食べている人も多いと思いますが、タンニンは鉄分の吸収を抑えてしまうため食事から1~2時間経ってから食べるのがおすすめです。

また、鉄分や葉酸として食べてほしいほうれん草ですが、実は鉄の吸収を妨げる「シュウ酸」が含まれています。そのため水で煮てあく抜きをしてから調理するのがよりおすすめです2)

 

2)生活習慣での対策

貧血の改善のためには、十分な睡眠と適度な運動で体をケアすることも大切。産後はなかなかまとまった睡眠をとることがむずかしいですが、睡眠不足は鉄分の吸収を阻害します。さらに貧血によって睡眠の質が低下するという、負のサイクルが起こってしまうこともあります。

そんなときは適度な運動でストレス解消と体に適度な疲労を感じさせることで、しっかり眠る環境を整えましょう。運動は睡眠の質を高めるだけでなく、ヘモグロビンを含む赤血球を増やす効果もあります。注意したいのは産後の体に負担をかけない運動を選ぶこと。おすすめなのはストレッチやヨガ、ウォーキングです。ハードな運動は反対に、体内の鉄分を奪ってしまうこともあるので避けましょう。

 

 

まとめ:産後貧血は妊娠・出産を頑張った証

産後貧血は、赤ちゃんのためにママの鉄分をたくさん使ったことが原因、ママが赤ちゃんを大切に育てたことの証です。

そんな頑張ったママは産後の貧血と体の回復のためにも、頑張りすぎないことが大切。周りに頼れる人がいるときはサポートをお願いする、産後ケアや産後サポートなどの力を借りることで、ママと赤ちゃんの健康を守りましょう。赤ちゃんのお世話は産後すぐだけでなく、この先ずっと続きます。ぜひママ自身を大切にして、不調に負けない産後の生活を送りましょう。

 

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参考文献・参考サイト
1)日本産婦人科医会 第四回:妊産婦の鉄欠乏性貧血 -産科編-知識のアップデートとより良い診療を目指して
2)厚生労働省 鉄

 

この記事の監修

牛丸敬祥  医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長

院長 牛丸 敬祥

経歴

  • 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
  • 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
  • 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
  • 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
  • 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
  • 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
  • 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。