妊娠中に起こる糖尿病「妊娠糖尿病」とは【医師監修】
- 2024年5月11日
- 更新日: 2024年6月3日
- 医療コラム
妊娠糖尿病は妊婦さんの7~9%の方が診断される病気で、決して珍しいものではありません。しかし、血糖のコントロールがうまくいかないと、母子ともにリスクを高めてしまう病気でもあります。
今回は妊娠糖尿病のことについて詳しく説明します。母子のリスクや、なりやすい人についても詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。
1.妊娠糖尿病とは?診断基準をチェック
1)妊娠糖尿病とは
妊娠中に血糖値が上昇する場合、注意が必要な糖代謝異常は「妊娠糖尿病」、「妊娠中に明らかになる糖尿病」、「糖尿病合併妊娠」の大きく3つがあります1)2)。
妊娠糖尿病とは、妊娠中にはじめて発見された糖代謝異常のことで、糖尿病のほどではない軽い糖代謝異常です。
「妊娠中の明らかになる糖尿病」には、もしかしたら妊娠前から診断されていない糖尿病があったかもしれないという糖代謝異常などが含まれます。「糖尿病合併妊娠」は、糖尿病といわれていたひとが妊娠した状態です。これらは妊娠糖尿病より重度の状態になるため、血糖をより厳密に管理する必要があります。
2)糖尿病の検査
糖尿病と判断するためには、いくつかの検査を通し総合的に判断をしていきます。
血液検査
妊娠糖尿病の検査は採血で血糖値を測ります。
・随時血糖(ずいじけっとう):通常の血糖検査。普通に食事を摂取した状態で測定
・空腹時血糖(くうふくじけっとう):食事を取らない状態での血糖検査。
・ブドウ糖負荷検査:糖分の入った検査用のジュースを飲んで行う血糖検査。
スクリーニング検査
すべての妊婦さんに行う検査で、妊娠糖尿病かもしれない人をひろいあげるのが目的の検査です。すべての妊婦さんは妊娠初期に、随時血糖を測定します。
妊娠初期に陰性であっても、妊娠が進むにつれてインスリンという血糖調節ホルモンの効果が低下しやすくなるため、妊娠中期(24〜28週)にも再度スクリーニングを受けます。
妊娠糖尿病診断のための検査
スクリーニング検査などで、随時血糖や空腹時血糖が高い場合は、妊娠糖尿病の診断のために、ブドウ糖負荷試験を行います。
3)診断基準となる血糖値の数値とは?
2010年7月に妊娠糖尿病の診断基準が改定され、以下のような基準となりました。
※ 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「妊娠と妊娠糖尿病」より
2.妊娠糖尿病の原因・メカニズム
妊娠糖尿病の主な原因は、妊娠によって血糖値をコントロールするホルモンの働きが悪くなることです。
妊娠すると、血糖値が上昇しやすくなります。このような糖代謝異常は、すい臓が分泌するインスリンというホルモンの不足や働きの低下により、血糖の調節がうまくいかなくなることが原因で起こります。
インスリンは血糖を下げる作用がるホルモンですが、妊娠すると、胎盤から分泌されるホルモンによってインスリンの効果が抑制されてしまいます。さらに、胎盤内の酵素がインスリンを分解する働きを持つため、妊娠中は通常よりもインスリンが効きにくくなってしまうのです。
その結果、妊娠中、特に後期になると高血糖になる可能性が高くなり、一定の基準を超えると妊娠糖尿病と診断されるのです。
3.妊娠糖尿病になったらどうなる?
1)症状
自覚症状はほとんどありません。早期発見につなげるためにも、毎回妊婦健診では尿糖のチェックなどを行い、妊娠初期・中期には血糖検査を行います。
2)ママや赤ちゃんへの影響
妊娠糖尿病になると血糖値が高くなり過ぎることで、以下のような様々な病気を引き起こしてしまうことがあります。
※ 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「妊娠と妊娠糖尿病」より
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3)産後の影響
妊娠糖尿病になった方は、産後6-12週間後にも再びブドウ糖負荷試験をうけ妊娠糖尿病が治っているかどうか評価してもらうのが望ましいです。産後はかかりつけの医師と相談して検査を検討しましょう。
もし治っても、妊娠糖尿病になった方は、妊娠糖尿病のなかった人に比べ、約7倍の高頻度で糖尿病になります。その後も定期的な検診、生活習慣に気を付けましょう。
4.妊娠糖尿病の治療法とは
治療法は主に食事療法ですが、場合によっては投薬による血糖管理などが必要となることもあります 2)。
食事療法では、血糖値を食前100mg/dl未満、食後2時間120mg/dl未満を目標に管理していきます。しかし、過度な食事制限はママや赤ちゃんの低血糖などを招くためバランスを考え、6回ほどの分回食にすることで急な血糖値の上昇を防ぎます。
食事療法での血糖管理がむずかしい場合は、赤ちゃんに悪影響を与えないインスリン注射を用いて管理します。妊娠が進むにつれ、インスリンの使用量が増えますが、ほとんどの場合産後には減量あるいは中止できるので心配しないようにしましょう。
3.妊娠糖尿病になりやすい人とは?
妊娠糖尿病になりやすい人の特徴もわかるようになってきました。以下は、妊娠糖尿病を発症しやすい妊婦さんの特徴です。
肥満
家族に糖尿病の人がいる
高年妊娠(35歳以上)
尿糖の陽性が続く場合
以前に大きな赤ちゃんを産んだことがある人
原因不明の流産・早産・死産の経験がある人
羊水過多(ようすいかた:羊水が多い)
妊娠高血圧症候群の人、もしくは過去に既往がある人
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4. 妊娠糖尿病を予防するためにできること
「3. 妊娠糖尿病になりやすい人とは?」で挙げたように、自分がなりやすい因子を持っているかどうかを確認しましょう。自分が妊娠糖尿病になりやすいかを認識しておくことは、糖尿病を予防するためにもとても大切です。もちろん、あてはまる因子があったとしても必ず発症するというわけではありません。かかりつけの医師や助産師などと相談しながら、日頃から生活習慣や体調などに注意をして過ごしていきましょう。
また、ストレスのためすぎは、生活習慣の悪化や食生活の乱れ(甘いものを多く食べたくなる)などを誘引します。適度なストレス発散をこころがけることも大切です。つわりの方はまずは食べられるものを優先して食べてくださいね。
すべての疾患や異常の早期発見にもいえますが、妊娠期間中は母子の異常に少しでも早く対処できるよう、定期的な妊婦健診は必ず受けましょう。
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まとめ:妊娠糖尿病にならない、悪化させないため
妊娠糖尿病はよく耳にする妊娠合併症ではありますが、病態が悪化すると母子ともにリスクが高くなる病気です。日頃から生活習慣を意識し、暴飲暴食やストレスをため込むなどがないように過ごすようにしましょう。もし、普段と何か違う、違和感があるなどの症状がある場合は妊婦健診をまたず、かかりつけの医師に相談してくださいね。
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出典
1) 国立研究開発法人 国立成育医療研究センターホームページ「妊娠と妊娠糖尿病」
2) 公益社団法人 日本産科婦人科学会ホームページ『妊娠糖尿病』
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。