難産になる原因とは? 安産のため妊娠中に気をつけること【医師監修】
- 2024年3月2日
- 更新日: 2024年8月27日
- 医療コラム
妊娠中はどのママ・ご家族も「安産になってほしい」「難産になりたくない」
という気持ちでお過ごしでしょう。
ここでは
「難産とは」どういう状況のことで、何が原因なのか?
安産に出産を終えるために妊娠中に気を付けてほしいこととは?
について詳しくお伝えします。
できることから取り組んでみてくださいね。
1.難産とは
難産とは医学用語ではなく一般的には
正常分娩ではない異常分娩のことを指します。
スムーズに何も問題なく終える「安産」とは違い分娩中に母体や赤ちゃんなどに何かしらのトラブルが起こってしまう状態です。
分娩時間が長いお産を「難産」と考えている方も多いでしょう。
どこから難産というのはなく異常分娩のひとつである分娩遷延の目安は
初産婦で30時間、経産婦で15時間以上かかる場合です。
異常分娩は、妊娠期間中に何かトラブルを抱えている方はもちろん
妊娠期間中何も問題なくても起こる可能性があります。
2.難産になるとどうなるの?
難産(異常分娩)になるとママと赤ちゃんの命を優先するために適切な処置を行います。
難産の原因や分娩進行にもよりますが場合によっては吸引分娩、帝王切開などを行うなどその状況に合わせた一番よい方法で対応していきます。
3.難産の原因とは
難産の原因はさまざまですが
「ママ(母体)側の原因」
「赤ちゃん(胎児)側の原因」
胎盤などの「付属物による原因」
に大きく分けることができます。
1)ママ(母体)側の原因
① 産道の異常
産道とは赤ちゃんが出産時に通ってくる道のことで
「骨盤(骨産道)/子宮頚部・膣・外陰部(軟産道)」のことをいいます。
このどちらかに問題があるとお産が進まないことがあります。
例えば…
【骨産道のトラブル】
骨盤のゆがみ、赤ちゃんの頭より骨盤が小さいことにより起こる「児頭骨盤不均衡」など
※身長が低いママ(低身長の目安:150㎝未満)やパパとの身長差が大きいと児頭骨盤不均衡のリスクが高くなる
【軟産道のトラブル】
軟産道が硬い・拡がりにくい「軟産道強靭」など
② 娩出力の異常
娩出力とは赤ちゃんを生み出すために必要な力で陣痛・腹圧(いきみ)のことをいいます。
ママ自身の体力(高齢出産など)や疲労などによって娩出力が弱い(微弱陣痛)とお産がうまく進まずお産が長引いてしまうなどトラブルを起こす場合があります。
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③ 妊娠合併症などの病気
妊娠合併症の代表的なものとして
妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などがあります。
これらの病気があると分娩中のリスクが高くなり難産(異常分娩)になる可能性があります。
【妊娠高血圧症候群1)】は
妊娠20週以降に初めて高血圧を発症するのものでさまざまな病気の誘因にもなり子癇発作、常位胎盤早期剥離、胎児機能不全など母児ともにリスクが高くなります。
【妊娠糖尿病2)】は
妊娠中にはじめて発見された糖代謝異常で羊水量の異常、肩甲難産、巨大児、児の心臓の肥大などを引き起こすリスクがあります。
2)赤ちゃん側の原因
① 胎位の異常
赤ちゃんがうまく産道を通り出産するためには、お腹の中の赤ちゃんの姿勢(胎位)も大切です。
特に頭が上にある逆子(骨盤位)は大きい頭が先に進むお産とは違い、足やお尻が先進するため時間がかかります。場合によってはへその緒を先に押し出してしまう「臍帯脱出」の危険性があります。
② 回旋の異常
赤ちゃんは狭い産道をうまく通るために回りながら(児の回旋)産まれてきます。回旋は全4回の行程を経ますが、そのいずれかの回旋がうまくいかなかった場合お産が進まなくなる可能性があります。
③ 巨大児や多胎児
赤ちゃんの体重が大きい場合は、分娩に時間がかかってしまう可能性があります。ふたご・みつごといった多胎児の場合は、赤ちゃんたちの胎位や体重によって経腟分娩での娩出が危険な場合もあります。
※児の発達障害と難産の関連については詳しくわかっていません。
3) 付属物による原因
胎児付属物とは胎盤・へその緒・羊水などのことで、赤ちゃんを支えている器官です。
妊娠中・分娩中に、赤ちゃんが娩出する前に子宮から胎盤が剥がれる(常位胎盤早期剥離)は、母児ともに危険な状態になるため、緊急帝王切開が選択されます。また、へその緒が赤ちゃんの首や体に絡まる「臍帯巻絡」などがあるとお産が長引く場合もあります。
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4.難産にならないために妊娠中に気を付けること
難産にはいろいろな原因があり誰でも難産になってしまう可能性があります。しかし、難産にならないために妊娠中からできることも多くあります。
少しでも安産に近づくために以下のこと意識しながらすごしていきましょう。
1)体重コントロールを意識しよう
安産において一番大切なのは妊娠中の体重管理です。
妊娠中の体重は増えすぎはもちろん増えなさすぎも問題です。妊娠前の体格を基準に適切な体重増加について知り体重をコントロールして過ごしましょう。
特に妊娠後期(妊娠8か月以降)や臨月(妊娠10か月)に入ると体重のコントロールが難しくなり体重も増えやすくなります。
出産直前まで毎日体重測定をするなどして自分の体重管理を意識していきましょう。
最新の産婦人科診療ガイドライン3)では妊娠中の体重増加について以下に示されています。
やせ女性:切迫早産,早産,貧血および低出生体重児分娩のリスクが高い
肥満女性:妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病,帝王切開分娩,巨大児などのリスクが高い
妊娠期に体重増加量が
著しく少ない(太らなすぎ):低出生体重児分娩や早産のリスクが高まる
著しく多い(太りすぎ) :巨大児分娩,帝王切開分娩のリスクが高まる
※妊娠前の体格によって推奨体重増加量が異なる
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① 自分の体格・BMIを知ろう
BMI(Body Mass Index)とは体格指数のことで、身長と体重によって算出される指標4)です。
まずは、妊娠前の体重から自分のBMIを算出しましょう。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
例)身長160cm、体重50kgの人のBMIは?
50(kg)÷1.6(m)÷1.6(m)=19.5
② 妊娠中の適切な体重増加量を確認しよう
BMIを算出したら、当てはまる体格の基準内の体重増加を目指しましょう。
妊娠中の体重増加指導の目安5)
妊娠前の体格*2 | 体重増加量指導の目安 | |
---|---|---|
低体重(やせ) | 18.5未満 | 12~15㎏ |
普通体重 | 18.5以上25.0未満 | 10~13㎏ |
肥満(1度) | 25.0以上30.0未満 | 7~10㎏ |
肥満(2度以上) | 30.0以上 | 個別対応(上限5㎏までが目安) |
*1 「増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分ではないと認識し,個人差を考慮したゆるやかな指導を心がける.」 産婦人科診療ガイドライン産科編 2020 CQ 010 より
*2 日本肥満学会の肥満度分類に準じた。
※国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ホームページ『妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針:妊娠中の適切な体重増加量について』より
2) 栄養バランスのとれた食生活を心がけよう
妊娠中の食生活はママだけではなくお腹の中の赤ちゃんの発育にも直接影響します。
妊娠期間中は栄養バランスのとれた食事を心がけることが大切です。
妊娠中の体重管理はもちろん妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などを防ぐためにも塩分・糖分の摂りすぎも気を付けていきましょう。
厚労省が発表した妊産婦の食生活のポイントは以下の通りです。
妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
~妊娠前から、健康なからだづくりを~
・妊娠前から、バランスのよい食事をしっかりとりましょう
・「主食」を中心に、エネルギーをしっかりと
・ 不足しがちなビタミン・ミネラルを、「副菜」でたっぷりと
・ 「主菜」を組み合わせてたんぱく質を十分に
・ 乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを十分に
・ 妊娠中の体重増加は、お母さんと赤ちゃんにとって望ましい量に
・母乳育児も、バランスのよい食生活のなかで
・ 無理なくからだを動かしましょう
・ たばことお酒の害から赤ちゃんを守りましょう
・お母さんと赤ちゃんのからだと心のゆとりは、周囲のあたたかいサポートから
※厚生労働省『妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針(令和3年3月)』6)より
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3)適度な運動をしよう
妊娠期間を健康に過ごすためには適度な運動が欠かせません。
体重の増加を適切に管理するだけでなく出産時の体力も向上させる助けになります。
妊娠期間中におすすめの運動にはウォーキングやマタニティヨガなどの有酸素運動があります3)。一方で、転びやすいスポーツやおなかを圧迫するおそれのある激しい運動は避けるようにしましょう。
妊娠中の運動は妊娠中の体調に合わせて行うことも大切です。最初に運動を始める際は必ずかかりつけの医師に確認して行いましょう。かかりつけの医師から指示された運動があればその運動を積極的に行うとよいですよ。
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まとめ:お産は常に危険がともなうもの
妊娠・出産は生理現象ともいわれてはいますが、常に危険が隣り合わせであることも事実です。しかし、妊娠中のすごし方を意識するだけでもさまざまなトラブルを回避することはできます。
無事に妊娠期間中をすごし笑顔で赤ちゃんを迎えることができるためにも
今回ご紹介した
「体重コントロール」「食生活」「運動」
を常に心がけてすごしてくださいね。みなさんの健やかな妊娠生活を心から願っております。
当院では
安心・安全に出産を迎えるために個別栄養相談、助産師外来、母親学級、マタニティビクスなど多種多様なメニューを設けております。
詳しくはこちら
ガーデンヒルズウィメンズクリニック 各種教室の案内
出典
1) 公益社団法人 日本産科婦人科学会ホームページ『妊娠高血圧症候群』
2) 公益社団法人 日本産科婦人科学会ホームページ『妊娠糖尿病』
3)公益社団法人 日本産科婦人科学会 公益社団法人 日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイ ドライン―産科編 2020』
4)国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ホームページ『妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針:妊娠中の適切な体重増加量について』
5)日本産科婦人科学会『妊娠中の体重増加の目安について』
6)厚生労働省『妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針(令和3年3月)
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。