産後の痔の痛みに悩むママに。症状・治療・対処法について【医師監修】
- 2025年6月28日
- 更新日: 2025年6月23日
- 医療コラム
デリケートな部分だからこそ、ほかの人に相談がしにくい「産後の痔」。実は多くのママが抱える産後のマイナートラブルの一つです。産後は、出産による肛門への影響や生活、体の変化など、で痔になりやすい条件がそろっているます。
ママが産後の生活を快適に過ごせるために、この記事では産後の痔の対処法について紹介しています。産後の痔にはどのような症状があるのか、治療法や予後など、産後ママが知りたい情報も紹介してますので、ぜひ参考にしてください。
1. 産後に痔になることはよくあること?
妊婦さんと産後ママの40%以上がおしりになんらかのトラブルを抱えているというデータもあるほど、産後の痔は珍しいことではありません1)。
産後は慣れない育児と出産の痛みや疲労に隠れて、なかなか痔のケアまで手が回らないという人は多いと思います。デリケートな部分でもあるため診察をためらってしまうかもしれませんが、辛い痛みを繰り返さないためにも早めに対処しましょう。
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2. 産後の痔の症状
1) いぼ痔
いぼ痔とは、肛門周囲の静脈がうっ血していぼ状に膨らんだものです。いぼ痔には肛門の内側にできる「内痔核(ないじかく)」と、肛門の外側にできる「外痔核(がいじかく)」の2種類あります。妊娠中は内痔核の方ができやすいですが、産後は出産による圧迫で外痔核もできやすいといわれています。
いぼ痔の種類 | 発生場所 | 出血 | 痛み |
内痔核 | 肛門の内側 | あり | ほとんど感じない |
外痔核 | 肛門の外側 | ほとんどない | あり |
内痔核ができる部位には神経が通っていないため、痛みを感じることはほとんどありません。そのため、出血や違和感で気づく人がほとんどです。悪化すると肛門の外側へと痔が移動してしまい、激痛を感じることがあります。
外痔核では出血はほとんどありませんが、肛門の外側には知覚神経が通っているため強い痛みを感じます。肛門の外に痛みや違和感があるときは、触診で外痔核があるかどうか確認してみましょう2)。
2) 切れ痔
切れ痔は肛門の皮膚が切れたり裂けたりしてしまうことです。排便時に痛みと出血があるのが特徴で、痛みの程度や出血量は切れ痔の程度によってそれぞれ違います。
切れ痔はなにもしなくても自然に治癒することがあります。しかし治療をせずに放置したり繰り返したりすることで傷がどんどん深くなり炎症を起こして、肛門の内側や外側にいぼ状の突起ができてしまうことがあるのです。それにより「肛門狭窄」とよばれる肛門が狭く便が通りにくい状態になることがあります。結果的に、狭くなった肛門を無理に便が通ろうとして切れ痔を再発するという悪循環が起こってしまうおそれがあるのです3)。
3. 産後の痔の原因
1) 出産時のいきみ、児頭の圧迫
産後の痔の原因には、出産時のいきみと赤ちゃんの頭が産道が押し広げながら通過する影響があげられます。出産時の圧迫により肛門周囲の静脈がうっ滞して「いぼ痔」が、肛門の粘膜が傷ついて「切れ痔」が発生してしまうのです。
2) ホルモンの影響
妊娠中に分泌量が増えていた女性ホルモンは、出産を終えると一気に減少します。女性ホルモンが減少する影響で、腸の動きが鈍くなり産後は便秘になりがちです。便秘で固くなった便が肛門に負担をかけてしまうことから、痔ができてしまいます。
さらに急激なホルモンバランスの乱れは自律神経にも影響して、末梢血管をキュッと締めてしまいます。血液の流れが悪くなるのもいぼ痔が発生する原因の一つなのです。
3) 便秘
産後の便秘はホルモンの影響だけではありません。母乳を作るためにはたくさんの水分が必要なため、産後は体の水分が不足しがちです。便の水分も少なく固くなると、なかなか腸の中を進むことができません。そして24時間休みなしの赤ちゃんのお世話でママの生活習慣が乱れてしまい、腸の動きを弱くしてしまいます。出産前のように体を動かすことができず、運動量が低下することも便秘の原因の一つです。
会陰切開や帝王切開の傷があると、産前と同じように排便時にいきむのがむずかしいでしょう。便がすっきり出ずに腸に溜まってしまうと、体に水分をとられてカチカチの固い便になり肛門に負担をかけてしまいます。
産後はさまざまな要因が重なって便秘になりやすい時期です。この後に紹介する便秘の対処法を生活に取り入れて、肛門への負担を防ぎましょう。
4) 長時間の授乳
産後すぐはママも赤ちゃんも授乳に不慣れで、授乳の時間が長くなりがちです。長時間同じ姿勢をとることで、血行不良を招き産後の痔を発症させてしまいます。授乳に時間がかかってしまうときは、途中に態勢を変えて血液の流れを促しましょう。
4. 産後の痔はいつまで続く?
産後の痔は自然に治ることもあります。しかし痛みや出血があるのに治療せずに放置すると、悪化する可能性や痔を繰り返すことがあるので注意が必要です。
内科の診察と違いデリケートな部分の診察となるため、受診を躊躇してしまう人もいると思います。しかし初期の段階で適切な治療を受けることが、長期化しないために重要です。産後の痔は珍しいことではありません。早期改善を目指すために、気づいた時点で受診をしましょう。
5. 治療法と対策について
1)便秘改善を目指す
産後の痔の原因の一つである便秘を改善することが、痔の予防と悪化させないためのポイントです。
産後すぐは運動がむずかしいため、食生活で便秘の解消を目指しましょう。食物繊維や乳酸菌、発酵食品といった腸の動きを活発にしてくれる食品を多く取り入れながら、バランスの良い食事を意識します。
また産後は母乳を作るために体の水分がとられてしまうので、便を柔らかくするためにも産前より多くの水分が必要です。母乳育児中は1日に2L以上の水分を意識しながらこまめに摂りましょう。
赤ちゃんのお世話でトイレを我慢することも多いと思いますが、便意を感じたタイミングを逃さないこともスムーズな排便につながりますよ。
2)薬による治療
辛い痔があっても、産後は赤ちゃんのお世話が優先で自分のことは後回しにしてしまいがちです。なかには恥ずかしさから痔で病院にかかるのを躊躇してしまうという人もいるでしょう。しかし痔は早期の治療で辛い痛みから解放され、悪化や再発を防ぐことができます。
産後すぐはママの病院受診が高いハードルとなることがあり、市販薬を使いたくなるかもしれません。しかし薬の成分によっては母乳を通して赤ちゃんに影響が出る可能性があるため、自己判断での薬の使用は避けましょう。
受診しようと思っても「何科に受診すればいいの?と迷う人もいるでしょう。産後1カ月以内なら健診のタイミングで産婦人科医師に相談するのがおすすめです。出産から時間が空いてしまったら、受診するのは肛門科です。授乳期間に受診した場合は授乳中であることを医師に伝えましょう。
3)手術が必要なケースも
薬で治療しても治らないときや強い痛みや出血が続くとき、病状が進行してしまったときなど、痔の手術が必要となるケースがあります。産後は赤ちゃんのお世話や母乳育児などですぐに手術が受けられないこともあるでしょう。手術の時期や治療方法については医師としっかりと相談して、よいタイミング・手術方法を選択しましょう。
4)症状悪化・慢性化を防ぐためにも早めに受診を
痔は治療せずに放置することで、悪化・再発することがあります。産後のママは赤ちゃんを優先しがちですが、ママの体が健康であることも赤ちゃんとの生活には大切です。早めの治療で悪化を防ぎ、早期改善を目指しましょう。
まとめ:産後の痔は多くのママが抱える悩み、早めの治療で早期改善を目指そう
「痔」というと恥ずかしさを感じてしまうという人は多いと思います。しかし産後の痔は多くのママが抱える悩みです。早い段階で治療を受けることで、辛い症状を解消して赤ちゃんとの生活を楽しむことができますよ。
産後の痔には出産という避けられない原因がありますが、生活を気を付けることで悪化や再発を防ぐことができます。痔を予防する食生活や姿勢に気を付けることなどは、痔だけでなく産後の体の回復や赤ちゃんの健やかな成長にもつながります。痔だけに注目するのではなく、生活を整えることで産後の穏やかな生活を楽しみましょう。
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参考文献・参考サイト
1)Poskus, T. et al: BJOG, 13: 1666, 2014.
2)MSDマニュアル 痔核
3)MSDマニュアル 裂肛
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。