大切な妊娠初期、知っておきたい生活の基本・すごし方【医師監修】
- 2025年3月1日
- 更新日: 2025年3月8日
- 医療コラム
妊娠初期は妊娠したことに喜びを感じる半面、辛いつわりが始まる方もいるでしょう。また、変わっていく体や妊娠・出産に対して不安になり、心身ともに不安定になりやすい時期です。
「いつになったらつわりが終わるんだろう?」
「ちゃんと赤ちゃんは育ってるのかな?無事に出産できるかな?」
と不安な思いで過ごす人もいるのではないでしょうか。
この記事では、ママと赤ちゃんが健やかに過ごすためにどうすればいいのかを解説していきます。ぜひ参考にして、妊娠初期を乗り越えましょう。
1. 妊娠初期とは
妊娠から出産までの期間は約40週、そのうち妊娠15週(妊娠4カ月)までの期間を妊娠初期といいます1)。
みなさんの中には、妊娠1日目は「受精卵が着床した日」「妊娠が成立した日」だと思っている人は多いのではないでしょうか。実は、妊娠0週0日は最終月経の開始日のこと。自然妊娠であっても、体外受精などの不妊治療による妊娠であっても、妊娠週数の計算方法に違いはありません。
妊娠が成立したばかりの妊娠初期は、ママも赤ちゃんもまだ不安定で流産のリスクも高い時期です。「妊娠したかも」と思ったら、早めに病院を受診しましょう。
2. 妊娠初期で起こりやすいトラブルとは
妊娠初期のトラブルとして思い浮かべるのは「つわり」という人も多いでしょう。しかし、妊娠初期にはつわり以外にもさまざまなマイナートラブルがあります。さらに、妊娠初期は流産のリスクも高いため注意しなければいけません。
ここからは妊娠初期に起こりやすいトラブルについて、詳しく解説していきます。
1) つわり
つわりは、多くの妊婦さんが経験する妊娠初期のトラブルの一つ。妊娠5週頃から症状が出はじめ、妊娠8~10週に最も症状が強くなることが多いようです。
また、「いつになったらつわりが治まるの?」と不安になると思いますが、多くは16週までには症状が治まってきます2)3)。
しかし、つわりには個人差があり、症状がまったく出ない人や出産までつわり症状に悩まされる人などさまざまです。つわりの原因はしっかりと分かっていませんが、妊娠で大きく変化するホルモンバランスが関与するのではないかといわれています。
つわりには、これをすればよくなるという解決方法がありません。以下に示すように、自分に合った方法でつわりを乗り切りましょう。
● 食べれるものを少しずる食べる
● 水分をこまめに摂る
● すぐに食べられる小さなおにぎりなどを持ち歩く
辛いつわりで家事や仕事など日常生活がむずかしくなることもあります。夫婦で協力してつわりを乗り切ることが大切です。
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2) 切迫流産
切迫流産は、流産しかかっている状態のことです。主な症状は出血や下腹部の痛みですが、全く症状がなく健診で発見されることもあります。
妊娠初期の流産の原因は、ほとんどが赤ちゃんの染色体異常です。そのため、残念ながら有効な治療法がありません。染色体異常の原因はさまざまありますが、高齢妊娠も原因の一つとされています。
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3) 妊娠初期のマイナートラブル
妊娠初期は、妊娠前と比べてホルモンバランスが大きく変化し、少しずつ子宮も大きくなっていきます。これらの体の変化から「マイナートラブル」とよばれる症状が出ることがあります。
妊娠初期によくあるマイナートラブルには疲労や頭痛、便秘、むくみ、頻尿などです。また、体だけでなく心もホルモンバランスの影響を受けて、情緒不安定になることがあります。妊娠初期は体と心に変化があるということを理解し、家族や友人に不安な気持ちを相談したり、辛いときに頼ったりしましょう。
また、妊娠初期のマイナートラブルとしてあまり知られていないのが「歯のトラブル」です。つわりで歯磨きが難しいことや、ホルモンの影響で歯周病になりやすいことが原因といわれています。歯磨きのヘッドを小さいものに変えたり、においが少ない歯磨き粉に変更したりするなど、できることから工夫していきましょう。
3. 妊娠初期の食事・栄養のポイント
栄養バランスを考えて食事をすることは、妊娠に限らず大切です。しかし、妊娠初期はつわりもあり、なかなか難しいこともあるでしょう。食事をするうえでおさえたいポイントをお伝えします。無理のない範囲で、意識していきましょう。
1)つわりのときは食べられるものを
つわりで吐き気があったり食べ物のにおいがきついという人は、食事を摂ることが難しいでしょう。「お腹の赤ちゃんのためにしっかり栄養を摂らないと」と思うかもしれませんが、実は赤ちゃんがママから栄養を受け取るのは胎盤が完成する妊娠15週を過ぎてからです。そのため、つわりのある期間は無理せずに、消化の良い食べやすいものを食べるようにしましょう。
そして、つわりの時期に注意したいのが「脱水」です。吐いてしまっていたり食べ物から水分を摂れなかったりすると、体の水分が不足して脱水になってしまいます。スポーツドリンクや炭酸水など、自分が飲みやすい水分を用意しておきましょう。スポーツドリンクは糖の摂りすぎには要注意です。吐き気のあるつわりがある場合は、一気に飲まずに少量ずつこまめに飲むのがおすすめです。
2)葉酸の摂取
妊娠初期は赤ちゃんの脳や脊髄の元である「神経管」が作られる時期。この時期にママの体内の葉酸が不足すると「神経管閉鎖障害」になるリスクが高くなります。神経管閉鎖障害は成長とともに「無脳症」や「二分脊椎」といった赤ちゃんの命が危険になる怖い病気に発展してしまいます。これらのリスクを下げるためにも、積極的に葉酸を摂取しましょう。
葉酸は水に溶けやすいという性質があるため、食べ物からの妊娠中に必要な葉酸の量を摂取するのは難しいといわれています。そのため、厚生労働省は葉酸をサプリから1日400μg摂ることを推奨しています4)。赤ちゃんの健やかな成長のためにも、サプリをうまく活用しながら葉酸を摂取していきましょう。
3)生肉や生魚を控える
妊娠中は「生肉や生魚を控える」という話を聞いたことがある人もいるでしょう。生肉や生魚を控える理由は2つあります。
1つめは、生肉にリステリア菌やトキソプラズマ菌が潜んでいる可能性があるからです。
これらの菌に感染すると、赤ちゃんの目や脳に障害が出る可能性や、早産や流産、死産してしまうこともあります。また妊娠中はママの免疫が低いため、重症化して命が危険になることもあります。
2つめに、生肉・生魚は食中毒の危険があるからです。
食中毒になり下痢を繰り返すと、その刺激で子宮が収縮して流産や早産のリスクが高くなります。妊娠中は赤ちゃんに影響がない薬を選ぶ必要があるため、使える薬が限られています。そのため、まずは妊婦さんが感染しない行動をとることが大切です。
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4)水銀を多く含む魚類の摂取は控える
魚には必須脂肪酸のDHA/EPA、カルシウムなどの栄養がたっぷり含まれていて、赤ちゃんの脳の発達にもよいといわれています。そのため、妊娠中に積極的に摂ってもらいたい食べ物の一つです。
しかし魚に含まれる「水銀」には、神経障害や発達障害を引き起こす可能性があるため、食べる量には注意が必要です。ほとんどの魚に水銀は存在していますが、魚の大きさに比例して水銀の量が多くなります。マグロなどの大きな魚は控えるなど、妊娠中に食べる魚の種類と摂取量に気を付けていきましょう。
ママが摂取しいた水銀が赤ちゃんに取り込まれるのは、胎盤ができる妊娠15週頃からです。妊娠に気付かずにマグロを食べてしまっていたという人も、妊娠に気付いた時点から水銀を多く含む魚の摂取に気をつけていきましょう。
5)カフェインの摂りすぎには気をつける
妊娠中にカフェインを摂りすぎると、赤ちゃんの体重が小さくなったり、成長に影響を与えたりすることが分かっています。さらに、つわりや不眠、頻尿などのマイナートラブルが悪化、流産・早産のリスクが高くなることも指摘されています5)。
厚生労働省は妊娠中のカフェインは1日300㎎まで、コーヒーであればマグカップで約2杯を推奨しています6)。妊娠中は決められた量の中でカフェインをとるのもよいですが、ノンカフェインやデカフェなどを利用するのもおすすめです7)。
6)アルコールを控える
妊娠中のアルコールの大量摂取は、赤ちゃんを「胎児性アルコール・スペクトラム障害」にしてしまう可能性があります。胎児性アルコール・スペクトラム障害とは、顔面の形成異常や低体重、脳障害などを引き起こしてしまう病気です。さらに早産や流産のリスクも上がってしまいます8)。
料理に使用する料理酒は、加熱することでアルコールが蒸発するので心配ありません。また、妊娠超初期の飲酒は赤ちゃんへの影響がほとんどないと言われているので、心配しなくて大丈夫ですよ。
4.生活習慣の見直し
妊娠初期はママの体も赤ちゃんもまだ不安定な時期です。そのため、妊娠前の生活を見直さなければいけないこともあります。
妊娠初期に見直したい主な生活習慣はこちら
● 感染予防を徹底する
● 喫煙を避ける
● 運動
● 仕事
1) 感染予防を徹底する
妊娠中は、妊娠前に比べて免疫力が低下しています。妊娠前なら大丈夫だった菌にも感染しやすく、さらに赤ちゃんへの影響を考えて有効な薬が使用できない場合もあります。そのため、妊娠中は菌に感染しないために「感染対策を徹底する」ことが大切です。
感染予防の基本は「手洗い・うがい・マスクの着用」です。
感染症が流行している時期は、人混みへの外出を避けることも感染予防の1つとなります。
インフルエンザが流行する時期は、ワクチンを接種して重症化を予防するためにも受けましょう。2人目を妊娠中の方は、上のお子さんから風邪をもらうこともあるため注意しましょう。
2) 喫煙を避ける
たばこに含まれるニコチンやタール、一酸化炭素などは血管を収縮させて子宮・胎盤への血液の量を減少させてしまいます。その結果、赤ちゃんが低酸素状態になり、流産や早産・死産のリスクが高くなります。
妊婦さんがたばこを吸っていなくてもパートナーや家族の副流煙が原因でママと赤ちゃんへ影響が出てしまうこともあります。妊娠中は夫婦で協力して禁煙しましょう。
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3) 運動
妊娠中の運動には、メリットがたくさんあります。体を動かすことで体重の管理やストレスを解消、赤ちゃんへ送る血液の流れもよくなります。これから迎える出産への体力作りにも、運動は役立つでしょう。
しかし、妊娠初期はママも赤ちゃんもまだまだ不安定な時期なため、運動を開始する時期は妊娠中期に入ってからの方がおすすめです。妊娠初期は無理のない範囲で、ウォーキングなどの軽いものを選びましょう。また、医師に運動をしても問題はないか確認してから運動しましょう。
4) 仕事
妊娠が分かっても流産のリスクが高い妊娠初期は、職場への報告は「まだ早いのでは?」と感じる人もいるでしょう。しかし重いものを持つことや長時間同じ姿勢での作業は、不安定な妊娠初期の体に負担をかけてしまいます。安定しない妊娠初期だからこそ、上司に報告して仕事内容を調整してもらいましょう。
辛いつわりや体調不良があり、医師が休職による安静や通勤時間の調整などが必要だと判断した場合、事業主は必要な措置を行う必要があります9)。職場に対してどんな配慮・制限が必要かを具体的に伝える「母健連絡カード」を活用するのもおすすめです10)。
5.妊婦健診は必ず受けよう
妊婦健診はお腹の赤ちゃんの成長を確認し、ママの健康状態に問題がないかを調べるための定期健診です。妊娠初期は4週間に1回の健診が法律で定められています。
妊娠初期に行う健診の主な項目 血圧・体重測定、採血、尿検査、超音波検査、感染症検査など
妊娠初期は赤ちゃんの重要な臓器が作られる大切な時期であるとともに、ママのホルモンバランスの変化やつわりなどの体調不良から、心身ともに不安定になりやすい時期です。
この時期に精神的に不安定になることもあります。定期的な妊婦健診は赤ちゃんの成長やママの体調を確認するだけでなく、うつの早期発見と専門家からの精神的なフォローを受けられる機会です。妊娠期間に定められた妊婦健診は必ず受けるようにしましょう。
6.パートナーのサポートについて
妊娠初期はつわりや体の怠さ、常に眠気を感じるなど、妊娠前とは違うさまざまな体調の変化を感じる時期です。
パートナーが積極的に重い荷物を持ったり、家事を率先してやったりすることで、妊婦さんをサポートしていきましょう。また、つわりでにおいに敏感になることもあるため、アルコールやにんにくなどの強いにおいの食べ物に気をつけましょう。たばこは赤ちゃんの成長に影響を与えるため、禁煙を目指します。
また、妊娠中は免疫力が低く、感染症にかかりやすくなっています。感染すると重症化してしまうことがあるため、手洗い・うがいをしっかりして菌を持ち込まないように気を付け、予防できるものはワクチン接種をしましょう。
妊娠初期はホルモンバランスの変化から、気持ちが落ち込みやすい時期です。近くにいるパートナーが妊婦さんの精神状態を気にかけていきましょう。
まとめ:「妊娠初期は体調の変化が大きい時期」
妊娠初期はホルモンバランスが大きく変わることで、つわりや情緒不安定など心身の変化がある時期です。妊娠成立を嬉しく思う一方、辛いつわりや妊娠・出産への不安で安定しない時期でもあります。そのため、パートナーや家族の協力、そして職場の理解も必要です。
「まだ安定しないから」と妊娠報告を先延ばしにせずに、妊娠初期だからこそ人の手を借りることが大切です。赤ちゃんの健やかな成長、そして穏やかなマタニティライフを過ごすために、無理はせずに妊娠初期を過ごしましょう。
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参考文献・参考サイト
1)MSDマニュアル家庭版 妊娠の段階
2)産婦人科診療ガイドライン-産科編2023
3)大学病院医療情報ネットワークセンター 悪阻症状
4)厚生労働省 2対象特性 2-1妊婦・授乳婦
5)内閣府 食品安全委員会
6)厚生労働省 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~
7)Maternal Caffeine Consumption and Its Impact on the Fetus: A Review
8)e-ヘルスネット 胎児性アルコール・スペクトラム障害
9)働く女性の心とからだの応援サイト 妊娠中の女性労働者への対応
10)厚生労働省 働く女性の心とからだの応戦サイト 母健連絡カード
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。