妊娠中に食中毒になるとどうなる?胎児への影響や感染予防について【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

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妊娠中に食中毒になるとどうなる?胎児への影響や感染予防について【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

妊娠中に食中毒になるとどうなる?胎児への影響や感染予防について【医師監修】

 

妊娠中は免疫力が低下してしまうため、感染症だけではなく、食中毒にもかかりやすくなってしまいます。食中毒になってしまうと、ママだけではなく胎児にも影響を及ぼすものもあるため、口にいれるものはこれまでより一層注意が必要です。

 

今回は、妊娠中の食中毒について詳しくお伝えします。ママや胎児への影響だけではなく、感染予防のために意識してほしいことについてもご紹介していますのでぜひ参考にしてください。

 

 

1.妊娠中に食中毒になるとどうなる

 

妊娠中は使用できる薬や治療法なども限られてくるため、食中毒になっても直接的な治療ができない場合もあります。また、食中毒のなかには、ママの自覚症状がなくても胎児に影響してしまうものもあるため、日頃の生活で気をつけていくことが大切です。

 

1)ママへの影響

食中毒になってしまうと、嘔吐・下痢により、子宮収縮が引き越されやすくなるため、流産や早産のリスクが高まります。

 

また、妊娠中は、妊娠していない人に比べて血液が固まりやすく、血栓症(血管が血のかたまりで閉塞する病気。エコノミークラス症候群など)のリスクが5倍以上と高くなっている状態1)です。食中毒による嘔吐・下痢で脱水が起こってしまうと、この血栓症のリスクがさらに高まってしまいます。

その他にも、発熱や頭痛を伴うものものあり、妊娠生活に支障をきたす場合があります。

 

2)胎児への影響

食中毒を起こす原因となる細菌や寄生虫などの病原微生物の中には、ママを通して胎児に感染し、胎児の成長・発育、命に影響をおよぼすものがあります。
胎児への影響がある食中毒については次の項目で詳しく説明します。

 

 

 

 

2.胎児に影響がある食中毒とは

 

胎児に影響のある食中毒の症状や感染経路を知り、感染予防・対策の参考にしていきましょう。

 

1) トキソプラズマ

トキソプラズマ症とは、単細胞の寄生虫であるトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)によって引き起こされる感染症です2)。ネコの糞や土、加熱が不十分な生肉などからママへ感染し、そのママの胎盤を経由して赤ちゃんが感染します。

トキソプラズマに一度感染すると終生免疫が継続します。しかし、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染してしまうと、ママは無症状のことも多いですが、赤ちゃんが、先天性トキソプラズマ症を発症することがあるのです。

 

先天性トキソプラズマ症は、胎内死亡、流産、網脈絡膜炎、小眼球症、水頭症、小頭症、脳内石灰化像、肝脾腫などを発症。また、出生時が無症状であっても、成人になるまでに網脈絡膜炎や神経症状(てんかん様発作、痙攣など)等を呈することがあります3)

 

 

 

2)リステリア菌

リステリア菌(リステリア・モノサイトゲネス)は、河川水や動物の腸管内など環境中に広く分布する細菌です。加熱には弱いですが、4℃以下の低温や、高い塩分濃度の食品の中でも増殖できます4)

妊娠期に感染すると、ママが重篤な症状になることはまれですが、リステリアが胎盤や胎児へ感染し、流産・早産・死産の原因や生まれた新生児に影響(髄膜炎など)がでることがあります。

 

3)カンピロバクター

カンピロバクターは、ニワトリやウシ、ブタ等の家畜・家きん類、ペット、野鳥、野生動物といった多くの動物が持っている菌5)で、加熱していなかったり、加熱が不十分な食肉(特に鶏肉)やレバー(鶏、豚)等の臓器を食べること、カンピロバクターに汚染された飲料水等を飲むことにより人に感染します6)

カンピロバクターに感染すると、比較的少ない菌数(数百個程度)でも腸炎を発症し、発熱、倦怠感、頭痛、吐き気、腹痛、下痢などの症状を起こします。また、胎盤を経由して胎児に感染し新生児髄膜炎を引き起こす可能性7)があります。

 

 

3.胎児に直接影響しないが注意すべき食中毒

 

食中毒のなかには、胎児に直接影響はありませんが妊娠中のママが気をつけたい食中毒があります。それぞれの感染経路を知り予防に努めましょう。

 

1) サルモネラ菌

鶏・豚・牛等の動物の腸管や河川・下水道等の自然界に広く生息する細菌8)。熱に弱いため、十分に加熱することが大切です。主な症状は、吐き気、嘔吐、下痢などで、妊娠中の方の場合、子宮収縮を引き起こし切迫流産や早産のリスクが高まることがあります。

 

2) 腸炎ビブリオ菌

海水中に生息しており、主に魚介類やその加工品に付着して食中毒がおこる傾向が高く9)、魚や寿司など、生の魚介類を食べることで感染することがあります。激しい下痢や嘔吐、腹痛などの症状が出ることがあり、食べてから数時間から数日で症状が現れます。予防としては、十分に加熱することが大切です。

 

3)ノロウイルス

加熱処理が不十分なカキなどの二枚貝が原因10)で起こる食中毒で、突然の嘔吐を伴い、その後腹痛や下痢が起こることがあります。発熱はまれで、1日で症状が落ち着きます。妊婦さんでも感染する可能性がありますが、胎児への影響は報告されていません。

 

4) E型肝炎

豚肉やジビエの生食または加熱不十分な摂取が原因で感染する食中毒です。嘔吐や下痢といった消化器症状に加え、急性肝炎を呈し、強い黄疸が現れます。まれに劇症化するケースもあり、特に、妊婦が妊娠晩期に感染すると劇症化しやすいという報告があります4)

 

 

4.妊娠中食中毒になってしまったら

 

下痢・嘔吐がひどくて水分が摂取できない、腹痛が続く場合などは早めに医療期間へ受診しましょう。食中毒のなかには、妊娠中でも時期によって抗生物質の投与などをすることがあります。多くは、脱水予防などの輸液を行うなど対症療法を行い安静にして様子をみていきます。

 

 

5.食中毒の予防法

 

厚生労働省が提唱している食中毒予防の3原則は「つけない、増やさない、やっつける」11)。生活のさまざなシーンで、この観点を意識し食中毒予防に努めましょう。

 

1)手洗いをこまめにする

食中毒予防にはその他の感染予防と同じで、手洗いが非常に重要です。外出先から帰宅時や食事の前には、必ず石鹸を使って丁寧に手を洗いましょう。

トキソプラズマなど、生肉や動物の糞を介して感染する病気もあります。生肉を取り扱う際は、使い捨て手袋を着用し、調理後も必ず手を洗いましょう。

 

2)しっかり加熱したものを食べる

生肉(火を十分に通していない肉)、生ハム、サラミ、加熱していないチーズなどは食中毒の危険性があるため、妊娠中は食べないようにしましょう。

生野菜はしっかり洗うことも大切です。また、生ハムなどの食肉加工品、未殺菌乳、ナチュラルチーズなどの乳製品(加熱をせずに製造されるもの)、スモークサーモンなどの魚介類加工品もなるべく避けましょう。

 

3) 冷蔵庫は過信しない10)

リステリア菌や腸炎ビブリオは、塩分にも強く、冷蔵庫の中でも増殖します。冷蔵庫内に長く保存している作り置きのおかずや、古くなった食品は思い切って捨てましょう。また、表示されている消費期限や賞味期限を参考に庫内を整理し、食材・食品は十分に加熱して食べましょう。

 

 

まとめ:普段の生活から食中毒予防を意識しよう

食事は一日に何度も行うもののため、「食中毒」は身近な感染症ともいえます。とはいえ、妊娠中はママだけではなく胎児に影響を与えてしまうこともあるため、感染予防・対策には常に意識することが必要です。

日頃から感染予防をこころがけ、危険な食品は避け、健やかな妊娠生活を送れるようにしましょう。心配な症状や不安なことがあれば、かかりつけの医師に相談してくださいね。

 

 

 

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出典
1) 日本産婦人科医会:医事紛争最近の話題(1)産婦人科と血栓症
2) NIID 国立感染症研究所:トキソプラズマ症とは
3)日本産婦人科医会:トキソプラズマと母子感染
4)厚生労働省:妊娠中・育児中の食中毒予防について 5)厚生労働省:身近な危険食中毒 2回 カンピロバクター
6)内閣府:カンピロバクターによる食中毒にご注意ください
7)助産雑誌 66巻5号 :髄膜炎,食中毒菌が母子感染新生児発症の恐れ
8)日本食品衛生協会:サルモネラ菌
9)茨木県HP:腸炎ビブリオの食中毒
10)農林水産省:これから赤ちゃんを迎えるご家庭のための食中毒予防
11)厚生労働省:これからママになるあなたへ 食べ物について知ってほしいこと

 

この記事の監修

牛丸敬祥  医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長

院長 牛丸 敬祥

経歴

  • 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
  • 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
  • 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
  • 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
  • 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
  • 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
  • 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。