妊娠後期におきやすいトラブルと、注意すべきポイント【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

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妊娠後期におきやすいトラブルと、注意すべきポイント【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

妊娠後期におきやすいトラブルと、注意すべきポイント【医師監修】

 

妊娠後期は、出産が近づき、赤ちゃんに会える喜び、心配、不安などが入り混じった時期です。また、大きく成長した子宮や女性ホルモンの変化など、妊婦さんの体は妊娠前とはまったく違った状態となっています。

この記事では、妊娠後期に起きやすいトラブルや生活のポイントについて解説しています。出産に向けた体と心の準備についても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

 

 

1.妊娠後期とは

 

1)妊娠後期はいつからいつまで

妊娠後期は妊娠28週(妊娠8カ月)以降、出産までの時期です1)
臨月は妊娠36週以降出産まで残り1カ月の時期のことをいいますが、医療用語では妊娠37週~41週6日までを「正期産」といいます。また、正期産より前の出産を「早産」、42週以降の出産を「過期産」といいます。

 

2) 妊娠後期の特徴

妊娠後期は赤ちゃんの1日の成長が大きく、妊娠期間で一番ママの体重が増える時期です。赤ちゃんの成長とともに、ママのお腹は大きく前にせり出します。

大きくなったお腹や女性ホルモンの影響で、むくみや便秘、頻尿などのマイナートラブルが妊娠中期よりも強くなります。また出産時期が近づいてくると出産や育児に対して不安になったり、情緒不安定になることもあります。

 

 

2.妊娠後期で起こりやすいトラブルとは

 

妊娠後期は子宮がどんどんと大きくなり、周囲の臓器を圧迫してしまうことでマイナートラブルが増える時期です。ほかにもホルモンや血液など妊娠後期独自の理由があります。

 

1)恥骨痛・腰痛

 恥骨痛

女性ホルモンの「リラキシン」が骨盤の関節と靭帯を柔らかくして、赤ちゃんが産道を通りやすいように調整します。骨盤が左右に開くときに恥骨に痛みを感じたり、骨盤が大きくなったお腹を支えきれなくなり恥骨に負担がかかって痛みが出たりするのです。

 

 腰痛

妊娠中期にも腰痛に悩まされた人はいると思いますが、妊娠後期はさらにお腹が大きくなるため、反り腰になり腰の痛みを生じる可能性が増えます。子宮によって血が圧迫されて血液の流れが悪くなることも、腰痛の原因の一つでしょう。

 

腰痛・恥骨痛を解消するには、背筋をまっすぐにして正しい姿勢に気を付けること、そして運動、骨盤ベルトがおすすめです。骨盤ベルトは腰痛だけでなく早産予防にも役立ちます。運動はこの後の「妊娠後期の生活のポイント」で紹介します。

 

2) 頻尿・尿漏れ

 

妊娠後期の頻尿には2つの原因があります。

● 子宮によって膀胱が圧迫されて、貯めておく尿の量が少なくなってしまうこと。
● 血液の量が増えることで、腎臓で作る尿の量が増えること。

これらの理由から頻繁に尿意を感じてトイレに行くのですが、実際排尿すると少量しか出ないということもよくあります。

 

頻尿とともに妊娠後期のマイナートラブルでよくあるのが「尿漏れ」です。

女性ホルモンの影響で尿道を締める力が弱くなり、くしゃみや咳、胎動によって膀胱が圧迫されて尿が少量漏れてしまうのが尿漏れです。この後解説する骨盤底筋体操で尿漏れを予防していきましょう。

 

3) 足のむくみ

妊娠後期に足がむくみやすい原因は2つあります。

1つめは子宮が足の付け根にある静脈を圧迫してしまうことと、血液の量が妊娠前に比べて増えていることが原因です。

血管が圧迫されて狭くなると血液は滞ってしまい、行き場のなくなった血液中の水分は血管の外に漏れ出します。むくみの正体は、血管の外に漏れ出した水分。くわえて妊娠後期の血液量は妊娠前の1.5倍に増えているため、漏れ出す水分の量も多くなってしまうのです。

 

2つめの原因は、女性ホルモンが体内に水分を蓄えてしまうことです。

女性ホルモンは妊娠を維持するために体に水分や栄養を貯めこむ作用があり、貯め込まれた水分がむくみにつながります。女性ホルモンは妊娠後期に分泌量がピークになるため、むくみやすくなってしまうのです2)

 

 

 

4)貧血

赤ちゃんの成長には「鉄」が重要なため、ママの血液中から優先的に赤ちゃんへ鉄分が送られます。そのため、ママは鉄が不足した「鉄欠乏性貧血」になりやすい状態です。

また、妊娠後期は出産にむけ血液の量が増えますが、血液中の水分だけが増えて赤血球などの中身が少ない「血が薄い状態」にもなります。この状態を改善するために、腸から「鉄」を吸収して赤血球を増やそうとします。

これらのことから体内の鉄分が不足してしまい、妊娠期間のなかでも特に妊娠後期には貧血になりやすいのです3)

 

めまい、疲労感、動悸、息切れ、頭痛などの症状があったら貧血が進行しているかもしれません。貧血の状態が長く続くと、赤ちゃんの成長に影響したり、分娩時の出血が止まりにくかったりします。妊娠後期は鉄分を多く含む食材や鉄の吸収を促進する食材を多く摂るようにしましょう。

 

5)その他の症状

 

胸やけ、胃痛、吐き気、げっぷ

大きくなった子宮に胃が圧迫されることで出る症状で「後期つわり」ともよばれています。
妊娠後期に分泌量が増える女性ホルモンの影響で、胃腸の働きが弱くなり下痢や消化不良を起こすことも関係しています。

 

 こむら返り

こむら返りの原因は脱水、ミネラルバランスの乱れ、筋肉への負担です。
妊娠後期は代謝量が増えるため汗をかいていなくても脱水状態になりやすく、ミネラルバランスが乱れてしまうのです。大きなお腹を支えている足にも負担がかかってしまい、足の筋肉が疲労していることも原因となります。こむら返りは夜中に起こることが多いため、寝る前に水分をしっかり摂るようにしましょう。

 

眠気、怠さ

妊娠後期の眠気には、寝つきが悪くなる「エストロゲン」と眠気を引き起こす「プロゲステロン」が関与しています。これらの女性ホルモンの影響で「眠いけどなかなか眠れない」という現象が起こるのです。

また、お腹が大きくなり寝る体勢が辛くなってしまうこと、夜間の頻尿も安眠を妨害する要因です。夜にしっかりと眠れないため日中も眠気と怠さを感じやすくなります。こまめな昼寝で、からだを休めましょう。

 

 頭痛

妊娠後期の頭痛の原因には貧血、ホルモンバランスの変化、自律神経の乱れ、血行不良、運動不足などが挙げられます。
頭痛を解消するためには水分をこまめにとったり、お風呂で温まったり、体に負担の掛からない運動、休息などの方法があります。
それでも辛い頭痛が続く時は、無理はせずに病院で相談しましょう。

 

 

3.妊娠後期の注意すべき健康リスク

 

出産が近づいてくる妊娠後期には、大きくなる子宮やホルモンバランスの変化など体に大きな負担がかかり、妊娠中ならではの病気を発症することがあります。ここからは妊娠後期の注意すべき健康リスクについて、詳しく解説していきます。

 

1)切迫早産

切迫早産は正期産よりも早い妊娠22週0日~36週6日の期間に出産の兆候がある状態のことです。
切迫早産の主な症状はこちらです。

【切迫早産の症状】
● お腹の張りや痛み
● 性器出血
● 子宮口が開く、子宮頸管が短くなる
● 陣痛前の破水

 

安静にしていてもお腹の張りや下腹部痛が治まらない、水のようなおりものが出るときはすぐに病院に相談しましょう。また、自覚症状がなくても妊婦健診で切迫早産が発見されることもあります。妊娠後期は健診の頻度が多く大変ですが、異常の早期発見のためにも妊婦健診は必ず受けましょう4)5)

過去に切迫早産の経験がある人、双子以上の妊娠の人、持病がある人などは切迫早産になりやすいので注意が必要です。

 

 

 

2) 妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降に発症する高血圧です。

自覚症状はほとんどなく、健診で発見されることがほとんどです。血圧が140/90以上だと妊娠高血圧症候群と診断され、悪化すると頭痛や目の前がチカチカすることがあります。

血圧が高い状態が続くと腎臓に負担がかかり、手足に強い浮腫みやタンパク尿が出る「妊娠高血圧腎症」に移行してしまうこともあります。また、妊娠高血圧症候群は赤ちゃんの成長不良や、常位胎盤早期剝離・子癇・HELLP(ヘルプ)症候群といった赤ちゃんとママの命の危険を及ぼす状態を引き起こすこともあります6)

元々高血圧の人や持病がある人、高齢妊娠、双子以上の妊娠などは妊娠高血圧症候群になる可能性が高いため、注意しましょう。妊娠中に発症しなくても産後に妊娠高血圧症候群になることもあるため、産後に決められた健診もしっかりと受けましょう。

 

 

 

3) 妊娠糖尿病

妊娠中は血糖値をコントロールするインスリンの働きが抑制されて、血糖値が上昇しやすくなります。妊娠糖尿病は自覚症状がありません。妊婦健診で発見されることがほとんどのため、定期的な健診で早期発見しましょう。

妊娠糖尿病になると赤ちゃんが巨大児になったり、お腹の中で亡くなったりしてしまうことがあります。流産・早産のリスクも上がり、帝王切開になる確率も高いという特徴があります。

 

 

 

4.妊娠後期の生活のポイント

 

妊娠後期は赤ちゃんの成長がピークになり、体重増加が最も多い時期です。食事・運動で体重管理をしつつ、赤ちゃんに必要な栄養をしっかりと届けましょう。

 

1)食事・栄養

妊娠後期は赤ちゃんの成長スピードが速くなり、ママが必要とするエネルギーも妊娠中で一番多くなる時期です。妊娠後期も栄養バランスのとれた食事が基本ですが、赤ちゃんの成長に必要な栄養素の量は妊娠初期・中期よりも増えるため、食事内容に気を付けていきましょう7)

この時期に後期つわりでなかなか食べられないという人は、食事の回数を増やして必要なエネルギーを摂っていきましょう。

 

 

 

2)運動と休息

妊娠後期は動くのが大変な時期ですが、出産には体力が必要なため無理をしない範囲で運動を続けましょう。妊娠後期におすすめの運動はストレッチ、ウォーキング、マタニティヨガ、マタニティビクスです。運動中にお腹の張りや痛みを感じたら、すぐに中断して安静にしましょう。

また尿漏れを予防する骨盤底筋体操は体への負担も少なく、産後の尿漏れも予防できます。

【骨盤底筋体操のやり方】
立った姿勢でも座った姿勢でも、楽な体勢でおこないます。仰向けの場合は、両ひざを軽く曲げた状態で足を肩幅に開きましょう。

①身体の力を抜いて、腟と肛門をお腹側にじわじわと引き上げるように締めます。
②その状態を3~5秒保持して、ゆっくりと緩めます。
③締める・緩めるを10セット繰り返しましょう。

 

妊娠後期になると貧血や睡眠の質の低下などの理由から、からだの疲れがとれにくく、眠気やだるさを感じやすくなります。適度な運動は大切ですが、疲れたなと思ったら無理をせずに休息をとりましょう。また、妊娠後期は長時間の睡眠がむずかしくなるので、日中短時間の昼寝がおすすめですよ。

 

 

 

 

3) 体重管理

妊娠後期は必要な栄養が多くなる半面、活動量が低下してして体重が増えやすい時期です。

体重が増えすぎてしまうと妊娠高血圧などの合併症を併発したり、お産の時に赤ちゃんが下りてきずらくなったり、腰痛、陣痛がうまく起こらずに出産が長引くことがあります。反対に体重が思ったように増えないと赤ちゃんが低体重で生まれたり、赤ちゃんの生活習慣病のリスクが上がったりします。

妊娠後期の体重増加量は多すぎても少なすぎも赤ちゃんが危険になるリスクが高くなるため、体重管理をしっかりとしていきましょう。

 

 

 

4)出産準備をする

妊娠後期はいつ出産になっても大丈夫なように入院の準備、そして心と体の準備をしましょう。

入院の準備は病院から指示されたものを中心に、入院中に必要なものや退院時の物品を準備します。陣痛や破水をした時に、家族への連絡や病院への交通手段などについても家族と相談しておきましょう。

また、出産後に赤ちゃんを迎えられるよう自宅も整えておきましょう。オムツなど退院後すぐに必要なものは、事前に準備しておくのがおすすめです。ベビーグッズをレンタルする場合は、事前に調べておき必要時にすぐレンタルできるようにしておきましょう。

入院グッズや赤ちゃんのものが揃ってくると「いよいよ出産が近い」という気持ちになると思います。赤ちゃんにやっと会えるという前向きな気持ちの半面、出産が怖い、赤ちゃんとの生活は大丈夫だろうかと不安になる人もいるでしょう。初めてのことに対して恐怖心を持ったり不安になったりするのは当たり前のことです。心配なことや不安があれば医療スタッフや家族に相談し、必要なサポートを受けましょう。

 

 

5.妊婦健診は必ず受けよう

 

妊婦健診は、妊娠28週~35週までは2週間に1回、妊娠36週以降は1週間に1回の頻度です。

週数に応じて、ノンストレステスト(NST)とよばれる赤ちゃんが元気かどうか、内診で子宮の入口の開き具合をチェックして、出産時期が近いかどうかも判断します。

妊娠後期はママの体への負担が大きく、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの病気を発症しやすい時期です。ママと赤ちゃんの健康を確認するだけでなく、異常の早期発見をするためにも定期的な妊婦健診は必ず受けましょう。 

 

 

まとめ:妊娠後期は出産に向けて体と心の最終調整をしよう

妊娠後期は出産を目前にお腹の大きさもピークになり、腰痛や頻尿、むくみ、疲労などのマイナートラブル症状が強くなる時期です。休める時に体を休めつつ、出産に向けて体力づくりのために適度な運動も続けていきましょう。

また、出産予定日が近くなると不安になる人も出てくるでしょう。家族に気持ちを打ち明けるのもよいですが、妊娠・出産のエキスパートである医師や医療スタッフも妊婦さんの気持ちにも寄り添いサポートしてくれる存在です。妊婦健診だけでなく、不安なことや心配な症状があるときは医療スタッフに相談しましょう。

 

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参考文献・参考サイト
1)MSDマニュアル家庭版 妊娠の段階
2)MSDマニュアル家庭版 妊娠後半にみられるむくみ
3)MSDマニュアル家庭版 妊娠中の貧血
4)日本産婦人科学会 産婦人科診療ガイドライン産科編2023
5)日本産婦人科学会 早産・切迫早産
6)日本産婦人科学会 妊娠高血圧症候群
7)厚生労働省 「妊娠期・授乳期にはエネルギーの必要量が増加」
8)厚生労働省 4「妊娠期の至適体重増加チャート」について

 

この記事の監修

牛丸敬祥  医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長

院長 牛丸 敬祥

経歴

  • 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
  • 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
  • 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
  • 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
  • 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
  • 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
  • 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。