妊娠中期・安定期のすごし方について、注意すべきポイントもご紹介【医師監修】
- 2025年3月8日
- 更新日: 2025年3月8日
- 医療コラム
妊娠中期は安定期ともよばれ、お腹がふっくらとしてきて、妊娠の喜びを感じながら穏やかな気持ちで過ごせる方も増えてきます。妊娠初期にあったつわりもおさまる人が多く、食事や生活を楽しむ人も多いでしょう。
しかし、妊娠中期には妊娠初期にはなかったマイナートラブルが出てくることがあります。
安定期に旅行や運動などをしたいと希望している人もいると思いますが、赤ちゃんを守るために気をつけないといけないこともあります。
この記事では妊娠中期の過ごし方と、妊娠中期に注意することについて解説しています。妊娠中期は妊娠期間の中でも、ママと赤ちゃんが安定している時期です。ぜひ参考にして妊娠中期を楽しみましょう。
1. 妊娠中期とは
1)妊娠中期はいつからいつまで
妊娠中期は、妊娠16週(5か月)~27週(7カ月)のことです1)。妊娠15週ごろに胎盤が完成してつわり症状がおさまる人が多く、妊娠初期に比べて流産率が低くなるため別名「安定期」ともよびます。
2) 妊娠中期の特徴
妊娠初期のつらいつわりが終わることで食事がおいしく感じられる時期です。ついつい食べ過ぎてしまう人もいると思いますが、体重管理には気をつけましょう。妊娠中期の食事については、この後の「妊娠中期を健やかにすごすための生活のポイント」で詳しく解説します。
妊娠5か月の赤ちゃんはオレンジ1個分、妊娠7カ月にはメロン位の大きさまで成長するといわれており、お腹のふくらみが少し目立つようになります。
妊娠20週ごろになると、徐々に胎動を感じるママも増えてくるでしょう。
大きくなるお腹に赤ちゃんの成長を感じて嬉しくなると思いますが、それと同時に妊娠初期にはなかったむくみや腰痛などのマイナートラブルも出てきます。
2.妊娠中期で起こりやすいトラブルとは
妊娠中期は「安定期」とよばれていますが、トラブルがまったくないわけではありません。ここからは妊娠中期に起こりやすいトラブルについて詳しく解説します。
1) 貧血
胎盤が完成すると、赤ちゃんはママの血液から栄養を取り込んで成長していきます。お腹の赤ちゃんが成長するために特に重要なのが「鉄」です。ママの血液中の鉄分は赤ちゃんに優先的に送られるため、、ママは鉄不足から貧血になりやすくなります。さらに妊娠中は血液の量が多くなり、血液中の水分だけが増えて赤血球などの血液の中身がすぐには増えないため、血液が薄くなり貧血になりやすいのです。
貧血は早産や低出生体重などのリスクとなります。さらに出産時にママが貧血だと、産後の肥立ちが悪くなったり、体力回復に時間がかかったりしてしまいます2)。
妊娠中期の貧血を予防・解消するために、鉄分の多い食事を積極的に摂りましょう。妊婦健診でも貧血の検査をしているため、貧血がないか確認するのも大切です。
2) 便秘
妊娠中期の便秘の原因は、女性ホルモンの「プロゲステロン」と子宮による腸の圧迫の2つです。
妊娠を維持するために分泌されているプロゲステロンには、体の中の水分をため込む働きがあります。便の中の水分も体に吸収してしまうので、便が固くなり便秘になってしまうのです。さらに、子宮が大きくなってすぐそばにある腸が圧迫されてしまうことで、より便が通りづらくなってしまいます。
妊娠中の便秘は、「痔」のリスクを高めるなど、生活に支障をきたす場合もあります。
妊娠中期の便秘を解消するには、食物繊維や乳酸菌、発酵食品を多く摂取して、適度な運動で腸を刺激することです。それでも改善しない場合は、健診の際に病院に相談しましょう。
3) 腰痛
妊娠中期は徐々に大きくなるお腹を支えるために、腰が反りがちです。反り腰は腰に負担がかかって腰痛の原因となってしまいます。また、出産準備として骨盤の関節と靭帯を柔らかくする作用がある「リラキシン」というホルモンが妊娠中から分泌しています。骨盤とその周辺の靭帯が柔らかくなることで、お腹を支える力が弱くなって腰に負担がかってしまうのです。
妊娠中期の腰痛は、なるべく正しい姿勢を保つことが大切です。「反り腰になっているな」と思ったら、背筋をまっすぐ伸ばしましょう。腰痛で辛いときはゆっくりお風呂に浸かって腰を温めたり、軽い運動で筋肉をほぐしたりするのがおすすめです。骨盤ベルトを使うと腰の痛みを和らげるだけでなく、流産・早産も予防してくれますよ。
4) 切迫流産・切迫早産
切迫流産は妊娠22週未満で流産しかかっている状態のこと、切迫早産は妊娠22週以降で早産になりかかっている状態のことです。
妊娠中期になると初期よりも流産のリスクは低くなりますが、出血があったり頻繁にお腹が張る、腰痛などの症状があるときは、病院に相談しましょう。
切迫流産と切迫早産については、こちらの記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
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3. 妊娠中期を健やかにすごすための生活のポイント
1) バランスのとれた食事を
妊娠中期は、赤ちゃんの骨や筋肉、内臓などの器官が形成される時期です。この時期の赤ちゃんは、ママの血液から栄養を取り込むため血液をよい状態にしておくことが大切です。バランスのよい食事で、赤ちゃんの健やかな成長をサポートしましょう。
【バランスのよい食事とは】
①主食を中心に、エネルギーをしっかり摂る
②不足しがちなビタミン・ミネラルを「副菜」でたっぷり摂る
③「主菜」を組み合わせてたんぱく質を十分に摂る
④乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを十分に3)
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2)体重管理
妊娠中期はつわりが落ち着いて、食事がおいしく感じられる時期です。しかし体重が増えすぎてしまうと、妊娠高血圧症候群や常位胎盤早期剥離などママと赤ちゃんのリスクが高まることがあります。反対に体重の増加量が少ないと、早産や赤ちゃんが低体重になる可能性があります。
日本産婦人科学会が発表している妊娠中の体重増加の目安はこちらです。
妊娠前の体格 | 体重増加量指導の目安 | |
---|---|---|
低体重(やせ) | 18.5未満 | 12~15㎏ |
普通体重 | 18.5以上25.0未満 | 10~13㎏ |
肥満(1度) | 25.0以上30.0未満 | 7~10㎏ |
肥満(2度以上) | 30.0以上 | 個別対応(上限5㎏までが目安) |
まずは自分のBMI(体格指数)を計算してみましょう。BMIはこちらの式でもとめられます。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
妊娠期の体重管理についてもっと知りたいと思ったら、こちらの記事も参考にしてください。
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3)適度な運動を
妊娠中期はママも赤ちゃんも安定してくるため、体に負担のかからない運動をすることができます。便秘解消や体重管理、出産に向けた体力の維持、ストレス発散にも役立ちます。
運動で血液をしっかりと循環させて、赤ちゃんにもたくさん酸素を送ってあげましょう。
妊娠中期に運動するときの注意点はこちらです。
● 長時間同じ姿勢は避ける
● 水分補給はしっかりと
● 運動後は十分な休息をとる
● お腹の張りなど異常を感じたらすぐに注意する
妊娠中期におすすめの運動はウォーキングやヨガ、水泳です。体に負担がかからないよう適度な運動をしていきましょう。
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4)仕事の調整
妊娠中期はお腹が大きくなり始め、重いものを持つことや立ち仕事など仕事の内容によっては今までのようにできない可能性があります。また貧血になりやすい時期なので、仕事中にめまいやたちくらみなどの体調不良になることもあります。
上司と相談して仕事量や業務内容、勤務時間、通勤時間など、体調に合わせて働き方を調整していきましょう。また、健診で医師から仕事について指導があった場合は、その内容を職場に伝えるか「母健連絡カード」を利用しましょう。
4.妊娠中期の生活で気になること・注意するポイント
体が安定してきて、出産前に色々やっておきたいと思う妊婦さんも多いと思います。しかし安定期だから絶対大丈夫ということではありません。注意点を守って、安全に過ごしましょう。
1) 旅行
「出産する前に旅行に行きたい!」と思う人もいるでしょう。妊娠期間のなかで旅行に行くなら妊娠中期がベストですが、旅行をする際に気をつけないといけないこともあります。
【旅行の際に気を付けるポイント】
● 母子手帳・健康保険証は持参する
● 旅行先の病院がどこにあるか確認しておく
● かかりつけの病院に旅行にいくことを事前に相談しておく
妊娠中の旅行はなるべく近場がおすすめです。もし飛行機に乗る場合は、同一姿勢によるエコノミー症候群を防ぐためにこまめな水分摂取と時々下半身を動かして血液が滞らないように注意しましょう。旅先では余裕のもったスケジュールでうごくように調整し、旅先での食事内容にも注意しましょう。
2) 温泉
温泉は体が温まることで赤ちゃんへの血液の流れが良くなり、さらにリラックス、冷え性改善、腰痛にも効果があります。そのため、妊娠中期の旅先の一つとして温泉を候補に挙げている人もいるでしょう。
「妊娠中の温泉は感染するのでだめ」という情報を聞いたことがある人もいるかもしれません。
実際は温泉で膣や子宮が感染することはないといわれています。しかし、温泉に入浴する際に使用する脱衣所や洗い場で感染する可能性はあるため注意しましょう5)。
安全に温泉に入浴するポイントは、温泉の温度と入浴時間です。妊娠中は血液の量が多くなっているため、のぼせやすくなっています。温泉は自宅のお風呂よりもやや高めな温度のため、長湯はせずに10分を目安にあがりましょう。温泉の成分によっては床が滑りやすいため、転倒に注意しましょう。
3) 運転
日頃から車を運転している妊婦さんは「いつまで運転して大丈夫なんだろう?」と気になりますよね。妊娠中の運転がだめな時期は基本的にはありませんが、妊娠中は体調の変化が起きやすく、集中力が欠けてしまうことがあるため、妊娠前よりも注意が必要です。長時間の運転は避けて余裕をもって運転することに気をつけ、体調不良を感じたらすぐに運転を中断しましょう。また足元が見えにくくなるので、乗り降りの際に転ばないように注意しましょう。
お腹が大きくなるにつれてシートベルトがきつく感じる人もいると思います。しかし、安全のためにシートベルトは必ず着用しましょう。マタニティ用のシートベルトも販売されているため、どうしてもシートベルトが辛い方は購入を検討しましょう。
4)夫婦生活
性行為は夫婦にとって大切なスキンシップの一つです。しかし妊娠中は流産や早産のリスクがあるため、お腹の張りを感じたり「おかしいな」と思ったらすぐに中止して、体調に合わせて夫婦生活をしましょう。また、妊娠中は性感染症への注意が必要です。必ずコンドームを着用し、お腹を圧迫しない体位を選びましょう。
5.妊婦健診は必ず受けよう
妊婦健診は、妊娠16週~23週までは4週間に1回、妊娠24週~35週までは2週間に1回です。
健診内容は、子宮底長と腹囲の測定、体重、血圧、尿検査、血液検査、エコーなどです。妊娠15週くらいになると、エコーで赤ちゃんの性別が分かることもあります。妊婦健診は赤ちゃんの成長とママの健康状態を確認するだけでなく、妊娠・出産に関わる専門家と話ができる機会です。妊娠中の悩みや出産に向けて心配なことがあれば相談しましょう。
妊婦健診以外でも、お腹の張りがある、出血している、水っぽいおりものが出るなど心配な症状があれば早めに病院に相談しましょう。
6.母親学級・両親学級を受講しよう
母親学級は、医師・助産師や栄養士などの専門家から妊娠・出産・育児に必要な知識を学ぶ機会のことです。とくに初めての妊娠・出産の方にとって、これから起こる体の変化や出産・育児は未知なことばかりで不安も多いでしょう。同じくらいの週数の妊婦さんと一緒に学ぶことで、不安や悩みを共有したり、出産に向けて一緒に頑張ろうと前向きになれる場でもあります。
母親学級は妊婦さんを対象にしていますが、両親学級は夫婦で妊娠~出産後のことを学ぶ機会です。夫やパートナーに妊娠中の女性の体のことを知ってもらうために、妊婦体験ができる学級もあります。ほかにも沐浴体験や妊娠中・出産後の女性の心の変化なども知ってもらい、出産・育児を夫婦で協力していくという意識づけの場でもあります。妊娠・出産・育児を夫婦で乗り切るために、両親学級にぜひ参加しましょう。
まとめ:「注意点を守って妊娠中期を楽しもう」
妊娠中期は妊娠期間の中で、ママの体も赤ちゃんも安定している期間です。つわりがおさまって食事や運動を楽しんだり、出産前に旅行を計画するなど、さまざまなことが楽しめる時期です。
しかし、安定期だからといってママと赤ちゃんが何事もなく絶対大丈夫というわけではありません。赤ちゃんの健やかな成長のために食事や体重管理に気をつけたり、ママの体調管理のために適度な運動を行うことも大切です。妊娠中期に気を付けてもらいたいポイントを守って、安全に過ごしましょう。
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参考文献・参考サイト
1)MSDマニュアル家庭版 妊娠の段階
2)MSDマニュアル プロフェッショナル版 妊娠中の貧血
3)厚労省こども家庭庁 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
4)日本産科婦人科学会 妊娠中の体重増加の目安について
5)日産婦医会報(平成22年2月号) 妊婦と温泉
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。