妊娠期の貧血~ママと赤ちゃんの健康を守るために知っておきたいこと~【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

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妊娠期の貧血~ママと赤ちゃんの健康を守るために知っておきたいこと~【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

妊娠期の貧血~ママと赤ちゃんの健康を守るために知っておきたいこと~【医師監修】

 

おなかの赤ちゃんに酸素と栄養を届ける重要な役割をするのがママの血液です。赤ちゃんの健やかな成長のためによい状態に保っておきたい血液ですが、実は妊娠中の貧血は多くの妊婦さんが抱えるマイナートラブルの一つ。

この記事ではママと赤ちゃんの健康を守るために知っておいてほしい妊娠期の貧血についてまとめています。自覚症状からは気付きにくい貧血を早期に発見する方法、そして貧血を予防する方法についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。

 

 

1. 妊娠中はなぜ貧血になりやすいのか?妊娠期の貧血の原因

 

1)血液量の増加と血液の希釈

お腹の赤ちゃんが大きく成長するために必要な酸素と栄養、これらを運ぶ役割をしているのがママの血液です。血液の量は赤ちゃんの成長に合わせて、妊娠後期にはなんと1.5倍に増えるといわれています。

血液の量が増えるといっても主に増えているのは「水分」で、赤血球や血小板といった血液の中身はあまり増えていないのです。そのため見た目では血液の量が増えていますが、実際は中身が少ない薄い血液となっています。これが「貧血」とよばれる状態なのです。

 

2)胎児の成長に必要な鉄分量の増大

お腹のなかの赤ちゃんが成長するために欠かせないのが「鉄分」です。血液中の赤血球を作る、脳を発達させるといった重要な役割を果たしています。さらにママから赤ちゃんへ栄養を送る橋渡しをしている「胎盤」と「へその緒」の発達にも鉄分は欠かせません。

鉄分は赤ちゃんの成長に不可欠なため、妊娠中は赤ちゃんへと優先的に鉄分が送られます。そのためママの血液中の鉄分は不足しがちで、妊娠中の貧血のほとんどが鉄分が不足する「鉄欠乏性貧血」だといわれています1)

 

3)つわりによる食生活の変化

妊娠中、ほとんどの妊婦さんが経験するといわれているつわり。食事だけでなく水分まで全く受け付けなくなってしまう人、特定の食べ物しか食べられないという人、常に何かを口にしていないといけない人など、つわりの症状は人それぞれです。

つわりの期間や程度に差はありますが、妊娠前のように栄養をバランスが考えられた食生活を送れる妊婦さんは少ないでしょう。このようなつわりによる食生活の変化によって、体に必要な栄養が不足してしまい貧血になることがあります。

 

 

2. 妊娠中に起こる貧血とは、症状、診断基準

 

1)妊娠中の貧血の症状

妊娠中の貧血で起きやすい症状はこちらです。

● めまいや立ちくらみ
● 疲労感・倦怠感の増加
● 息切れや動悸
● 顔色の悪さ(蒼白)
● 頭痛
● 集中力の低下
● 爪が薄くもろくなる
● 異食症(氷が食べたくなる ) など

 

貧血症状と妊娠中に感じる体の変化やつわり症状はとても似ています。たとえば妊娠後期になると「疲れやすい」と感じる妊婦さんが多いといわれていますが、実は貧血からくる症状の可能性があるのです。

疲労感や倦怠感以外にも息切れや動悸など、妊娠による影響だと思われているものが、貧血の症状かもしれません。このように貧血症状は妊娠に隠れて気付かれないことが多いのです。

 

2)貧血の診断基準、注意すべき「数値」とは?

妊娠中の貧血の診断基準はヘモグロビン値(Hb値)11.0 g/dL未満またはヘマトクリット値(Ht値)が33%未満です。

この値は妊娠していない女性の貧血の診断基準とは異なるため注意しましょう。

 

ヘモグロビンとは体内の鉄分が変化したものです。血液の中に存在していて、全身に酸素を運ぶ重要な役割をしています。ほかにも体内の鉄分はヘモグロビンに変換されるだけでなく、体の鉄分が不足したときに補えるようさまざまな臓器に貯めてあります。

妊娠中の貧血は自覚症状では分かりにくいため、妊婦健診の血液検査によって分かることがほとんとです。貧血が重症だったり、ほかの妊娠中の合併症を併発している場合、入院することもあります。妊婦貧血はママの体がつらいだけでなく、赤ちゃんの命を危険にしてしまうこともあります。貧血の早期発見のために定期的な妊婦健診は必ず受けるようにしましょう2)

 

 

3.妊娠時期別の貧血の特徴

 

1) 妊娠超初期・初期(〜15週頃)

妊娠初期はつわりによる食事量の低下や偏食によって鉄分が不足しがちです。そして貧血症状である倦怠感やめまい、吐き気などはつわりの症状とも似ているため、貧血に気づかれないことが多いのです。

さらに注目したいのは、20~40代の約65%の女性が貧血やかくれ貧血だということ。隠れ貧血とは簡易的な採血結果では貧血が分からないけれど、詳しく調べると貧血だと診断されるものです。隠れ貧血の状態が続くと、今後貧血になる可能性が高いといわれています。

このように元々貧血気味だったという人がつわりによって貧血が急速に進むことがあるのです3)

 

 

 

2) 妊娠中期(16週~27週)

妊娠中に貧血になりやすい時期は妊娠中期~後期にかけてだといわれています。その理由は赤ちゃんの成長と血液の量が増えるからです。

妊娠中期は赤ちゃんが急激に成長するため、赤ちゃんの成長に必要な鉄分の量も増えます。ママの血液中の鉄分は優先的に赤ちゃんへと運ばれるため、鉄分が不足して貧血になりやすいのです。さらに赤ちゃんの成長に伴ってママの血液の量が増えますが、血液の中身の少ない薄い血液になりやすいことも、妊娠中期に貧血が多い原因の一つです。

 

 

 

3) 妊娠後期(28週~)

妊娠後期はママの血液の量がピークになる時期です。一見血液全体が増えているように見えますが、実際は増えるのは水分のみで赤血球やヘモグロビンなどの血液の中身が少なく、貧血の妊婦さんが多いといわれています。

妊娠後期は妊娠中で一番貧血が多い時期です。しかし妊娠後期にあらわれやすい動悸や息切れ、嘔気といった症状が貧血症状と似ているため、症状からは貧血に気付かない妊婦さんがほとんどです。

 

また、母乳は血液から出来ています。そのため妊娠後期は、産後の母乳育児や出産時の出血に備えて鉄分をしっかりと摂っておきたい時期。この後に紹介する貧血対策を参考にして、妊娠後期から出産・産後に向けて準備していきましょう。

 

 

 

4. 妊娠期の貧血対策とは?予防・改善方法

 

1) 食生活の改善

妊娠中の貧血を予防・改善するために、まず生活に取り入れやすいのは食生活の改善です。妊娠中の食生活で気を付けたいポイントをおさえてましょう。

 

鉄分が豊富な食品を摂る

妊婦貧血のほとんどが、鉄分が不足することが原因の「鉄欠乏性貧血」です。鉄欠乏性貧血を予防・改善するために、鉄分が多く含まれる食品を積極的に摂取しましょう。

鉄分には動物性の「ヘム鉄」と植物性の「非ヘム鉄」の2種類があります。

【ヘム鉄を多く含む食品】
レバー、牛もも肉などの赤身肉、赤貝など

【非ヘム鉄を多く含む食品】
枝豆や納豆などの豆類、小松菜、ほうれん草、海藻類など

 

体への吸収率が高いのはヘム鉄ですが、妊娠中に非ヘム鉄だけを摂るのはおすすめできません。妊娠中は貧血の予防だけでなく、ママの健康と赤ちゃんの健やかな成長のためにバランスよくヘム鉄・非ヘム鉄を摂りましょう。

 

鉄分の吸収を助ける食品を摂る

非ヘム鉄は単体で摂るだけでは吸収率が低いのですが、ビタミンCや動物性たんぱく質と一緒に摂ることで鉄分の吸収率を高めることができます4)

 

【鉄分の吸収率を高める食品】
● ビタミンC
● いちごやグレープフルーツ、キウイフルーツなどの果物
● パプリカ、ブロッコリーなどの野菜
● 肉類
● 魚介類
● 卵
● 乳製品

 

鉄分の吸収を妨げる食品を避ける

貧血改善のために鉄分を積極的に摂っていても、気付かないうちに鉄分の吸収を妨げる食品を摂ってしまっていることがあります。鉄分の吸収を妨げる食品は身近にあるものが多いため、どのような食品が鉄分の吸収を妨げるのかを知り妊娠中はなるべく避けるようにしましょう。

 

【鉄分の吸収を妨げる食品】
タンニン:緑茶、コーヒー、紅茶など
リン酸塩 :清涼飲料水、菓子パン、カップ麺など

 

 

 

2) 医師から薬の処方

妊娠中に貧血になるとママの体調不良だけでなく、赤ちゃんに悪い影響が起こることがあります。そのため医師が必要と判断した場合に、薬が処方されることがあります。

妊娠中に処方されることが多いのは「鉄剤」です。しかし鉄剤は副作用を感じやすい薬で、嘔気や胃痛、便秘、下痢といったつらい症状で薬を飲み続けることが辛くなる妊婦さんが多いといわれています。また鉄剤の影響で真っ黒な便が出て、ビックリしてしまう人もいるでしょう。

鉄剤は飲み続けると副作用を感じにくくなるといわれていますが、それでも飲み続けることがむずかしい場合は自己判断で中断せずに必ず医師に相談しましょう。薬の種類の変更や注射での投与に変更するなど、今感じてる副作用がおさまることもありますよ。つらい副作用を少しでも軽くしたいときは、食後や就寝前に多めの水で鉄剤を飲みましょう。

 

3) サプリメントの活用

貧血を診断されるほどではないけれど、妊娠中に起こりやすい貧血を予防したいと思ったらサプリメントを活用するのもおすすめです。

妊婦さん向けのサプリメントには妊娠中に必要な栄養素をオールインワンで配合しているものも販売されています。オールインワンのサプリを選ぶなら、鉄分だけでなく吸収率を高めるたんぱく質やビタミンCも配合されているかどうかもチェックするとよいですね。鉄分は吸収率の高い「ヘム鉄」が配合されているものを選びましょう。

サプリメントの種類によっては、鉄分などの栄養素を過剰に摂取してしまうものもあります。そのためサプリメントを取り入れる前に、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

 

4) 定期的な妊婦健診の受診を

貧血の症状で代表的なものは倦怠感や息切れ、めまい、吐き気などです。これらは妊娠による体の変化から起こる症状と似ています。そのため症状だけで貧血に気付く妊婦さんは少なく、妊婦健診の採血で発見されることがほとんどです。

妊娠中の貧血には、大事な赤ちゃんの成長に影響を与えることがあります。ほかにも出産時の大量出血につながったり、産後の回復を遅らせてしまう要因にもなります。

自分で見つけずらい妊婦貧血を発見するには、定期的な妊婦健診をきちんと受けることが大切です。早期に治療を受けることでママと赤ちゃんの健康を守ることができますよ。

 

 

5. 妊娠中の貧血がママと赤ちゃんに与える影響とは

 

妊娠中の貧血はママの体だけでなく、赤ちゃんへの影響も心配です。定期的な妊婦健診で貧血の早期発見・治療をおこないましょう。

 

1)早産のリスク増加

妊娠中に貧血になると、早産のリスクが高くなるといわれています。早産とは、正期産よりも前の妊娠22週0日~36週6日までに赤ちゃんが産まれてしまうことです。本来お腹のなかで成長する期間にママの体の外に出てきてしまうため、体が未熟な部分があり医療的なサポートが必要になることもあります5)

 

 

 

2)低出生体重児の可能性

血液中の鉄分は「ヘモグロビン」という形で存在していて、赤ちゃんに酸素を届ける重要な役割をしています。しかし貧血になりヘモグロビンが少ない状態が続くと、赤ちゃんに酸素が届きづらくなってしまうのです。

さらに貧血によって血液の濃度が薄くなると、赤ちゃんの成長に必要な栄養が十分に届かない可能性もあります。これら2つのことから赤ちゃんの発育に影響を与えてしまい、生まれた時に体重の少ない低出生体重児になる可能性があります6)

 

3)出産時の母体の出血リスク増加

妊娠後期になると妊娠前に比べて1.5倍ほどに増える血液ですが、そのほとんどが実は水分。赤血球や血小板といった血液中の成分は、増えた血液の量に比べると少なく、血液が薄い貧血状態です。出産時、妊婦貧血の方は血液を止める役割をする血小板が少ないため、なかなか血が止まらない可能性があります。

 

4)産後回復の遅れ

産後すぐから赤ちゃんとの新生活がスタートします。そのためママは一刻も早く体力を回復したいと思うでしょう。

しかし、貧血のある妊婦さんは貧血で体力が低下しがちなのに、分娩でさらに疲労がたまってしまう状態です。そして出産時の出血や産後の悪露(おろ)、血液から作られる母乳育児が始まることから、さらにに貧血が進行してしまいます。妊婦貧血があると、産後の体力を回復するのに時間がかかってしまうことがあるのです。

 

 

まとめ:妊娠中の貧血は、予防と早期発見に努めよう

妊娠中の貧血は、どの妊婦さんにも起こる可能性があります。妊娠をしたら貧血になる可能性が高いことを意識して、まずは食生活から見直していきましょう。自覚症状からは気付きにくい貧血を発見するためには、定期的な妊婦健診を必ず受けることが大切です。

もし貧血だと診断されても落ち込まずに、しっかりと治療を受けましょう。貧血と向き合ってきちんと治療することで、赤ちゃんとママの健康を守ることができますよ。

 

 

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参考文献・参考サイト
1)厚生労働省:鉄の食事摂取基準(mg/日)
2)日本産婦人科・新生児血液学会:Q1-4.妊婦貧血とはどんな病気ですか?
3)厚生労働省:貧血・かくれ貧血
4)厚生労働省:鉄
5)日本産婦人科学会:早産・切迫早産
6)厚生労働省:低出生体重児

 

この記事の監修

牛丸敬祥  医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長

院長 牛丸 敬祥

経歴

  • 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
  • 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
  • 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
  • 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
  • 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
  • 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
  • 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。