妊娠中のママが注意しないといけない「TORCH症候群」(トーチ症候群)とは?【医師監修】
- 2024年10月5日
- 更新日: 2024年11月5日
- 医療コラム
妊娠中は、免疫力が下がるためさまざまな感染症にかかりやすい状態です。さらに、感染症にかかってしまっても、有効的な薬剤を使用するのことが難しい場合もあります。
感染症の中には、ママが軽症・無症状であっても、お腹の赤ちゃんに重篤な障害を与え、さらに流産など引き起こす恐れのある母子感染もあります。
今回は、赤ちゃんへのリスクがあり妊娠中のママが注意しないといけない、TORCH症候群について詳しくお伝えします。参考にして感染予防に努めていきましょう。
1.TORCH症候群(トーチ症候群)とは
TORCH症候群はママから赤ちゃんに感染してしまう「母子感染」により、流産や死産、生まれてきた赤ちゃんに重篤な症状を引き起こす感染症の総称で、疾患の頭文字からとったものです。
母子感染には胎盤を通して感染する胎内感染や、分娩時に産道を通ること感染する分娩時感染などがあります。
T:Toxoplasmosis(トキソプラズマ症)
O:Other(B型肝炎ウイルス、梅毒、水痘、リンゴ病など)
R:Rubella(風疹)
C:Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス)
H:Herpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス)
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2.どんな感染症がある?症状や感染経路など
TORCH症候群の感染症について説明します。
1)T:Toxoplasmosis(トキソプラズマ症)
トキソプラズマ症とは、単細胞の寄生虫であるトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)によって引き起こされる感染症です1)。
ネコの糞や土、加熱が不十分な生肉などからママへ感染し、そのママの胎盤を経由して赤ちゃんが感染します。
トキソプラズマに一度感染すると終生免疫が継続しますが、もし妊娠中の方が初めてトキソプラズマに感染してしまうと、赤ちゃんが、先天性トキソプラズマ症を発症することがあります。
先天性トキソプラズマ症は、胎内死亡、流産、網脈絡膜炎、小眼球症、水頭症、小頭症、脳内石灰化像、肝脾腫などを発症。また、出生時が無症状であっても、成人になるまでに網脈絡膜炎や神経症状(てんかん様発作、痙攣など)等を呈することがあります2)。
予防法としては以下を注意しましょう3)。
・ 食用肉はよく火を通して調理する
・ 果物や野菜は食べる前によく洗う
・ 食用肉や野菜などに触れたあとは、温水でよく手を洗う
・ ガーデニングや畑仕事などでは手袋を着用する
・ 動物の糞尿の処理時は手袋を着用する
・ 妊娠初期から予防や抗体検査につとめる、など
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2)O:Other(B型肝炎ウイルス、梅毒、水痘・帯状疱疹ウイルス、リンゴ病など)
その他として挙げられる感染症には以下のものがあります。
B型肝炎ウイルス
B型肝炎ウイルス(HBV)は肝臓に感染して炎症(肝炎)を起こします。肝炎が持続すると慢性肝炎から肝硬変、さらには肝がん(肝細胞癌)へと進展する可能性があります。
分娩時感染で、赤ちゃんに感染すると多くは無症状ですが、まれに乳児期に重い肝炎を発症することがあります。また将来、肝炎、肝硬変、肝がんを発症するリスクも高まります。
梅毒
梅毒は梅毒トレポネーマという細菌が性的接触にすることによって感染します。性⾏為時に、粘膜や⽪膚が梅毒の病変部位と直接接触することで感染します4)。
梅毒に感染したママが妊娠すると、胎内感染で赤ちゃんに感染し先天梅毒を引き起こすことがあります。
先天梅毒の症状は、生まれたばかりでは分からないことも多く、生後3か月以内で発症する早期先天梅毒では、特徴的な皮膚の症状(水疱、丘疹、赤銅色の発疹など)、リンパ節腫脹、肝脾腫などを起こします。また、生後2年以降に発症する晩期先天梅毒では、実質性角膜炎、難聴、歯のエナメル質の形成不全などがみられます5)。
水痘・帯状疱疹ウイルス
水痘帯状疱疹ウイルスによって起こる急性の伝染性疾患で、一般的には、小児期に感染し軽症で終生免疫を得ることが多いです。しかし大人になってから初めて感染してしまうと、重症化しやすく注意が必要な感染症になります。
また妊娠初期頃に水痘を発症すると胎盤を経由して赤ちゃんに先天性水痘症候群を起こす可能性があります6)。
先天性水痘症候群が起こる頻度は1~2%以下で、症状は四肢皮膚瘢痕、四肢低形成、眼症状(小眼球症など)、神経症状(小頭症、水頭症など)などです。また分娩前後に発症する周産期水痘の場合、赤ちゃんが水痘を発症し重症化してしまうことがあります。
リンゴ病
両頬の紅斑を特徴とした伝染性紅斑(リンゴ病)はヒトパルボウイルスB19が原因で起こり、小児でよくみられます。
しかし、妊娠中に初めてママが感染してしまうと、胎盤を経由して赤ちゃんに感染してしまい、胎児水腫や胎児死亡を引き起こすことがあります7)。
3)R:Rubella(風疹)
妊婦健診で検査を行う感染症のひとつで、免疫のないママが妊娠中、特に妊娠初期に感染してしまうと、胎内感染でお腹の中の赤ちゃんに感染し先天性風疹症候群を引き起こすことがあります。
先天性風疹症候群は先天性心疾患と白内障(妊娠 3 ヶ月以内の感染で発生)、難聴(6か月までの感染でも出現)が3大症状で、この他にも網膜症、肝脾腫、血小 板減少、糖尿病、発育発達遅滞、小眼球などを認めます8)。
予防としては、妊娠前にワクチン接種を終えるのがよいでしょう。また、妊婦健診で風疹抗体が無いと診断された場合に、まわりのすべての人もワクチンを接種して感染を防ぐことがとても重要です。
4)C:Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス)
サイトメガロウイルス感染症は、サイトメガロウイルスによって起こる感染症で尿や唾液など、様々な体液を介して感染します。症状はほぼなく、稀に発熱や倦怠感があるのみです。
しかし、妊娠中のママが感染することで赤ちゃんに感染すると先天性サイトメガロウイルス感染症を起こすことがあります。
先天性サイトメガロウイルス症候群は、低出生体重児、肝脾腫、小頭症・脳内石灰化、紫斑・血小板減少、貧血・黄疸、網膜症などを生じ、精神発達遅滞、運動障害、難聴などの後遺症を残す可能性があります8)。
感染源として最も注意が必要なのは、子どもの尿や唾液です。おむつ替えや食事介助の際など、尿や唾液のついた手で目鼻口を触った場合に感染します。子どもの食べ残しを食べない、同じ箸やスプーンなどを使わないようにしましょう。また、常日頃から、石鹸と流水でしっかり手を洗うことを意識しましょう。
5)H:Herpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス)
性器ヘルペスの原因となるウイルスです。分娩時に性器ヘルペスの病変があると、産道で赤ちゃんに感染してしまい、新生児ヘルペスを発症することがあります。
新生児ヘルペスは、皮膚だけに症状が出ることもありますが、全身の臓器に感染が及ぶと新生児死亡や重篤な脳炎や肺炎、肝炎などを引き起こすことがあります。
分娩が近づいた時期に性器ヘルペスを発症した場合には速やかに抗ウイルス剤による治療を開始し、 病変の消失を図る必要がありますが、分娩時に病変が消失 していない場合、1か月以内の初感染や1週間以内の再発の場合 には帝王切開を行い、児への感染を防ぎます8)。
3.検査ついて
TORCH症候群のなかには、妊婦健診で検査する感染症もありますが、全てを調べるわけではありません。トキソプラズマのように、家で猫を飼っている方などには「検査を勧める」「ご自分で希望する」場合もあります。
その他の感染症についても心配なことがあれば、医師に相談してみましょう。検査結果は母子手帳に記録してもらい、胎児や新生児への感染を防ぐために適切な治療や保健指導を受けることも大切です。
4.予防・治療について
TORCH症候群を持つお子さんには、症状を軽減または緩和するため、状況に応じた対症療法が必要です。不可逆的な障害が残ることケースあるため、妊娠を考えている女性や、妊娠中のママは常に「感染予防」の視点を持つことが非常に大切です。
【妊娠中の感染予防のための注意事項 – 11か条】9)
・石鹸と流水で、しっかり手を洗ってください。
・小さな子どもとフォークやコップなどの食器を共有したり、食べ残しを食べることはやめましょう。
・肉は、しっかりと中心部まで加熱してください。
・殺菌されていないミルクや、それらから作られた乳製品は避けましょう。
・汚れたネコのトイレに触れたり、掃除をするのはやめましょう。
・げっ歯類(ネズミの仲間たち)やそれらの排泄物(尿、糞)に触れないようにしましょう。
・妊娠中の性行為の際には、コンドームを使いましょう。
・母子感染症の原因となる感染症について検査しましょう。
・B群溶血性レンサ球菌の保菌者であるか検査してもらいましょう。
・感染症から自分と胎児の身を守るために、妊娠前にワクチンを打ちましょう。
・感染している人との接触を避けましょう。
先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」
まとめ:感染予防を意識した生活を
感染症はいつ感染するかわかりません。そのため、常日頃から感染予防を意識することが大切です。妊娠中のママはもちろん、妊娠を考えている女性も元気な赤ちゃんを迎えるために、毎日の生活を見直していきましょう。とはいえ、心配しすぎる必要はありません。今回ご紹介した感染予防は誰でも簡単にできるため、ときには周りの人に協力してもらいながらすごしていきましょう。
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出典
1)NIID 国立感染症研究所:トキソプラズマ症とは
2)日本産婦人科医会:トキソプラズマと母子感染
3)アメリカ疾病管理予防センター(CDC):Yellow Book トキソプラズマ症
4)日本産科婦人科学会:「梅毒と先天梅毒(⺟⼦感染)が増えています!」
5)MSDマニュアル:先天梅毒
6)NIID 国立感染症研究所:成人水痘-妊婦の水痘などを中心に
7)NIID 国立感染症研究所:ヒトパルボウイルスB19母子感染の実態
8)済生会新潟第二病院 産婦人科:妊娠中は手洗い励行、生ものに注意 TORCH 症候群を解説
9)先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」:妊娠中の感染予防のための注意事項 ‒ 11か条
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。