出産後に起こる陣痛「後陣痛」とは?メカニズムや緩和方法について【医師監修】
- 2024年9月28日
- 更新日: 2024年9月18日
- 医療コラム
「出産の後も陣痛がある」「経産婦さんはお産の陣痛よりも後陣痛が痛い」といったことを聞いたことがある人もいるでしょう。実際、お産の現場でも産後の痛みである「後陣痛」を心配される方が多くいます。
今回は、出産後に起こる後陣痛についてお伝えしす。なぜ、出産後も陣痛が起こるのかその原因やメカニズム、後陣痛をうまく乗り越えるための対処法・緩和法についてもお伝えしますのでぜひ参考にしてください。
1.後陣痛(こうじんつう)とは?
後陣痛(こうじんつう)とは出産後に起こる子宮収縮の痛みです。経腟分娩だけではなく、帝王切開後にも起こります。
赤ちゃんを娩出したあとに胎盤を娩出する後産(あとざん)1)とは異なります。
本来、子宮はこぶし大ぐらいの大きさですが、出産間近になると35㎝ほどの大きさになります。後陣痛は、この大きくなった子宮が出産後に急速に収縮するときに生じる痛みのことをいいます。
このように、産後、子宮が元の大きさに戻ろうとすることを「子宮復古」といい、産後6週~8週ほどで妊娠前の状態に戻ります。
もし、子宮が大きいままだと、胎盤が剥がれたところから出血をしてしまうため、子宮復古とても大切な産後の変化のひとつなのです。
1)後陣痛はいつからいつまで続く?
後陣痛は、早ければ出産当日から起こります。多くは、産後2〜3日目まで痛みが続き、産後4日目以降には、痛みが落ち着く場合が多いです。
多くの方が出産施設に入院中に後陣痛のピークを迎えることになります。後陣痛は、完全になくなるのではなく、出産後しばらく、一ヶ月程度までは、ときどき痛みを覚える場合もあります。
2)後陣痛ってどんな痛み?どこが痛い?
後陣痛の痛みの感じ方には個人差があります。軽い生理痛のような痛みや、全く痛みを感じない人がいる一方で、本陣痛と同じように感じてしまう人もいるのです。
具体的には、下腹部の痛みや腰の痛みが多いですが、なかにはおしりの奥が痛いと訴える方もいます。稀に痛みが強いことで、日常生活に支障をきたすママもいます。
後陣痛と一緒に悪露の排出もみられることもあります。強い後陣痛が続く場合のほかに、悪露の量が多い、悪露が1か月以上続くといった症状がある場合は、早めに医師に相談しましょう。
3)帝王切開後の後陣痛とは?
帝王切開後にも、後陣痛があります。しかし、創部の痛みなのか後陣痛の痛みなのか判断し難いこともあります。
基本、母乳を飲ませるときに感じる腹部の痛みは「後陣痛」であり、腹圧を入れる行為(立ち上がる、起き上がるなど)の際に、ずきっとする、つっぱり感があるような痛みは創部痛のことが多いです。
とはいえ、どちらの痛みも我慢しすぎる必要はありません。痛みがツライようであれば、早めに医師に相談しましょう。
2.後陣痛が起きる原因とは
1)後陣痛のメカニズム
後陣痛の原因としては、まず、お腹のなかの赤ちゃんと胎盤などの付属物が娩出されて、子宮内圧の消失が起こる物理的原因があります。
また、出産後に投与する子宮収縮剤や母乳授乳によって分泌されるオキシトシンというホルモンが原因で産後の子宮収縮が起こります。オキシトシンは、本陣痛のときに分泌されるホルモンです。ママのからだは母乳授乳をすることで子宮が小さくなることを促し、産後の回復を図ろうとしているのです。
2)後陣痛が強くなってしまう要因
後陣痛の痛みは個人差がありますが、後陣痛を強くしてしまう要因もあります。
経産婦
はじめて出産を終えたママよりも、2回目以降の出産を経た経産婦さんの方が後陣痛の痛みが強い傾向があります。
理由としては、初産婦のときより子宮が大きくなっていることや、子宮を元に戻す子宮収縮の力が強くなることで、後陣痛の痛みを強く感じやすくなるからです。
母乳授乳をしているママ
授乳によって乳頭が刺激されると、本陣痛でも活躍したオキシトシンというホルモンの分泌が亢進されます。そのため、授乳中や授乳後にお腹が痛くなることも多いです。
完全ミルクのママより後陣痛を強く感じてしまう可能性があります。後陣痛が落ち着いた後も、授乳時にふと後陣痛を感じる(ぶり返したと感じる)こともあるでしょう
双子などの多胎妊娠や羊水過多のママ
ふたり以上を妊娠する多胎妊娠や羊水過多、巨大児など、妊娠中に子宮が大きくなってしまう状況の場合は、後陣痛が強くなる傾向があります。
子宮収縮薬の投与
出産後、必要に応じて子宮収縮剤の投与または内服をするママがいます。特に、多胎妊娠や帝王切開、分娩時に出血が多い場合は、点滴などを通して子宮収縮剤が投与されます。 出産施設によっては、出産後の出血予防のためルーチンで子宮収縮剤を処方するところもあります。
自然の作用と合わせて、薬の作用もあるため、後陣痛をより強く感じることがあるのです。
3.後陣痛の対処法・緩和方法とは
後陣痛への対処法や緩和方法をしり、産後少しでも楽に過ごせるようにしましょう。「痛すぎる」「我慢できない」ほどの痛みの場合は、我慢しすぎず早めに医師に相談してください。
1)おなか周りを温める
おなかを温めることで血流が改善し、痛みが和らぐ効果が期待できます。そのため、必要に応じて湯たんぽやカイロを使用したり、シャワーで温めたりするとよいでしょう。
ただし、過度に温めると子宮収縮が弱まってしまい、産後の出血が増える可能性があります。
日頃から体が冷えないように、腹巻を着用する、下半身を冷やさない服装を心がけることが大切です。冷たい飲み物や食べ物はからだを冷やしてしまうため、白湯を飲んだり、体を温める食材を摂取したりすることで体の冷えを防ぐこともおすすめです。
2)楽な姿勢をとり、リラックスする
お腹に力がかからないようにすることも大切です。横になるときは、足を伸ばすと痛みを強く感じることもあるため、足を曲げながら横向きや仰向きなどさまざまな姿勢を試しながら、抱き枕やクッションを使って楽な体勢をとりましょう。
また、不安や緊張、疲労感が強いと、後陣痛を強く感じてしまう場合もあります。気を紛らわしたり、少しでも水分をとれるように家族など周りの人に頼るようにしましょう。
3)子宮周辺を優しくさする、マッサージをする
子宮周辺を優しくさする、痛みのある部分(腰やおしりなど)をさすることは、気を紛らわせるだけではなく、血流を促し、温めることにつながり、痛みの緩和に効果的です。マッサージをする際は、楽な体勢をこころがけて行いましょう。
4)医師や助産師に相談する
産後や処方されている産後薬のなかに子宮収縮薬が使用されている場合もあります。また、必要に応じて母乳の影響が低い鎮痛剤を投与して様子を見ることもあります。後陣痛が強い場合は、我慢はせず遠慮なく医師やスタッフに相談していきましょう。
4.後陣痛ではない痛みの可能性もある
産後もさまざまなトラブルが起こる可能性があります。痛みがずっと続く・強い痛みが続く・痛みが増強する場合など、不安な状態にあるときは、早めに医師に相談しましょう。
後陣痛と異なる異常としては、子宮内膜症や巣や卵管に炎症が起こる産褥子宮付属器炎(さんじょくしきゅうふぞくきえん)、虫垂炎、子宮筋腫の変性壊死、卵巣に液状成分などがたまってできる卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)の茎捻転(けいねんてん)などがあります。
以上のことが想定され場合、必要に応じて内診、超音波断層法、血液検査、腹部X線検査などの検査が必要です。
まとめ:後陣痛は大切な痛みだが我慢しすぎないで
後陣痛は、子宮を妊娠前の状態に戻すために必要な子宮からだの変化のひとつです。大切な現象ではありますが、出産を終え、育児が始まるママによっては苦痛にもなるでしょう。痛み強い場合は遠慮なく医師や医療スタッフに相談してください。そして、すこしでも産後をラクにすごせるように周りを頼ってくださいね。
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出典
1)公益財団法人 母子衛生研究会:よくわかる用語辞典 【妊娠編】「後産」
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。