新生児に飲ませる「ビタミンK2シロップ」はなぜ必要?目的・役割について【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

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新生児に飲ませる「ビタミンK2シロップ」はなぜ必要?目的・役割について【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

新生児に飲ませる「ビタミンK2シロップ」はなぜ必要?目的・役割について【医師監修】

 

ビタミンK2シロップは産まれたばかりの赤ちゃんが服用するお薬です。「こんな小さな赤ちゃんに薬を飲ませるの?」と心配になるママももしかしたらいるかもしれません。しかしビタミンK2シロップは、赤ちゃんに起こりやすい病気のリスクを抑えることができる大切な薬です。

この記事では「新生児にビタミンK2シロップはなぜ必要?」というママの疑問を中心に、ビタミンK2シロップの目的と役割について解説していきます。また、飲み方の工夫についても解説しているため、参考にしてください。

 

 

1.ビタミンK2シロップとは

 

ビタミンK2シロップは、赤ちゃんが生後3か月までの間に起こりやすい乳児ビタミンK欠乏性出血症を予防するために服用するお薬です1)

ビタミンKは成長とともに体内で作られるようになる栄養素のため、月齢が上がるとビタミンKが欠乏することはほとんどありません。しかし胎盤はビタミンKを通しにくいため、赤ちゃんは体内のビタミンKが少ない状態で産まれてきます。さらに、出生後の赤ちゃんはビタミンKを作り出す力が弱いため、産まれてしばらくの赤ちゃんはビタミンKが少ない状態が続いてしまうのです。

 

では、ビタミンKが体の中に少ないとどのような影響があるのでしょうか?
ビタミンKは血液を固める役割をしている栄養素です。体内にビタミンKが少ないと、もし出血してしまっても血を止めることができません。

ビタミンKが少ない新生児期~生後3か月の赤ちゃんは、脳や消化管などで出血をしてしまうリスクがあります。このことを「乳児ビタミンK欠乏性出血症」といい、出血により赤ちゃんの命が危険になることもあるのです。乳児ビタミンK欠乏性出血症は、ミルクよりも母乳を飲んでいる乳児の方が発症しやすいといわれています2)

 

 

2. 赤ちゃんに起こるビタミンK欠乏性出血症とは

 

乳児ビタミンK欠乏性出血症の主な症状である「新生児メレナ」と「頭蓋内出血」について解説します。

 

1) 新生児メレナ

「メレナ」は医療用語で、黒色便や下血を意味する言葉です。胃や腸で出血することで、赤ちゃんが吐いたものや便の中に血が混じったり、便の色が血液によって黒くなったりします。

新生児メレナが起こるのは生後2~4日が多く、赤ちゃんが入院中に起こることがほとんどです。
そのため、もし吐いたものや便の色がおかしいなと思ったら、すぐに医療スタッフに相談しましょう。

便や吐物に血液が混じっていても、実は赤ちゃんの体が出血していないものもあります。それが「仮性メレナ」です。

仮性メレナ
産まれる時にママの血液を飲み込んだものが吐物や便の中に出てきているもの。真性メレナ 赤ちゃんの体内で出血があり、その血液が吐物や便に混じっているもの。

仮性メレナの場合は治療の必要がありませんが、どちらか判断がつかない時は「アプト(Apt)試験」という検査で確認します。真性メレナの場合、薬剤による治療や輸血などをおこないます2)

 

2) 頭蓋内出血

頭蓋内出血は、生後2週間~2か月に起こりやすい頭蓋内で起こる出血です。前触れなく突然発症することがほとんどで、予後は悪く亡くなることも多い病気です。

頭蓋内で出血すると、赤ちゃんが突然嘔吐したり、けいれん、意識がなくなります。生後2カ月の間にこのような症状が出たら、すぐに病院を受診しましょう。

 

 

3.ビタミンK2シロップの投与方法

 

ビタミンK2シロップの投与法には「3回法」と「3カ月法」の2種類があります。

3回法は出生後と生後1週間、生後1カ月に投与、3カ月法は産後3か月まで週に1回のスケジュールで投与します。出産した病院から詳しいスケジュールの指示があるるため、それに沿って飲み忘れがないようにしましょう。

当院では、日本小児科学会で推奨されている「3カ月法」(13回法)を行っており、より赤ちゃんの安全に努めております。

 

 

4.K2シロップの飲ませ方・注意点

 

1)K2シロップを赤ちゃんに飲ませる方法

ビタミK2シロップを赤ちゃんが飲む時期は、まだ母乳やミルクを飲むのが上手ではないため飲ませ方に工夫が必要です。これから3つの方法を紹介しますが、出産した施設で習った方法、赤ちゃんに合った方法で薬を飲ませましょう。

 

【スプーンを使う方法】
スプーンに薬剤をのせ、赤ちゃんの口に流し込みます。
薬剤は一気にスプーンに入れずに、少量ずつ入れるとこぼれにくいでしょう。
また、赤ちゃんの正面からスプーンで流し入れるのではなく、頬の内側に沿わすように薬剤を流しいれるのがおすすめです。

 

【哺乳瓶の乳首を使う方法】
哺乳瓶の乳首を赤ちゃんにくわえてもらい、そこに薬剤を少量ずつ流し入れます。

 

【哺乳瓶を使う方法】
湯冷ましかミルク、母乳に薬剤を混ぜて赤ちゃんに飲ませます。
量が多すぎると飲めないことがあるので、10ml以下の赤ちゃんが飲みきれる量で作りましょう3)

 

2)K2シロップ投与時の注意するポイント

K2シロップを飲ませる時に気を付けてほしい注意点はこちらです。

●投与スケジュールを守る
●薬を袋から直接与えない
● 開封は使用する直前に
● 必ず1回で使い切る
● 他の薬と混ぜない
● 目や鼻、耳など口以外の場所に入らないように注意する

 

3)ビタミンK2シロップについてよくある質問

Q1.K2シロップを飲み忘れてしまったら?

飲み忘れが分かった時点でまず1回分飲みましょう。以降の薬については、決められた曜日もしくは飲み忘れに気づいた日の曜日に忘れずに飲むようにしましょう。

 

Q2.薬を吐いてしまったり、途中で残してしまったら?

半分より少ない量しか飲めなかった場合は、飲めそうなタイミングで次回分をもう一度飲ませましょう。吐いてしまった場合も、同様にもう一度飲ませましょう。

 

Q3.間違って多く飲ませてしまったらどうすればいい?

K2シロップを多く飲んでしまったことで赤ちゃんに悪い影響が起こるということはありません。
間違えて飲ませてしまった時点から、元の服用ペースに戻しましょう4)

 

 

5. 胆道閉鎖症のビタミンK欠乏症の関係

 

1) 胆道閉鎖症とは

胆道閉鎖症は、産後すぐの赤ちゃんに発症する胆道の病気です。

胆道は肝臓から作られた消化液の「胆汁」を腸へと運ぶ通り道です。胆道閉鎖症になると胆道がつまってしまい、胆汁が腸へ排出されなくなり、脂肪やたんぱく質などの消化吸収が阻害されてしまいます。

胆道閉鎖症は、肌や目の白い部分が黄色くなる「黄疸」がみられるのが特徴で、肝臓の組織が破壊されてしまい二度と治らなくなることもある怖い病気です。なぜ病気になるのかの原因は今のところ分かっていなく、胆道閉鎖症は難病に指定されています5)

 

食べ物の中に含まれているビタミンKは、実は脂肪と一緒に吸収されます。しかし胆道閉鎖症になると脂肪の消化吸収が悪くなるため、ビタミンKが体内に吸収されにくくなってしまうのです。体内のビタミンKが少ない産後の赤ちゃんにK2シロップでビタミンKを補充しても、胆道閉鎖症があるとビタミンKは体内に吸収される量が少なくなってしまいます。

このことから、胆道閉鎖症の赤ちゃんには頭蓋内出血のリスクは高く、注意が必要となります。

 

2) 胆道閉鎖症を早期発見するために

胆道閉鎖症の症状は「黄疸」と「便の色の異常」です。

産まれたばかりの赤ちゃんは「生理的黄疸」といって、一時的に皮膚が黄色く変化します。生理的黄疸は生後14日までには消失するといわれていますが、ずっと続く場合は胆道閉鎖症が疑われます。黄疸が2週間以上続く場合やどんどんひどくなる、治まったと思ったのにまた黄疸が出てくるなど、通常と違う時は病院に相談しましょう。

 

もう一つの早期発見のポイントは「便の色」です。胆汁は、実は「便の色の素」となっています。胆道閉鎖症で腸に胆汁が届かないと、便の色はクリーム色に変化します。母子手帳には便の色をチェックするページがあるため「便の色がちょっと変かも」と思ったら、確認してみましょう。

 

さらにチェックしたいのが「尿の色」です。胆道が閉鎖して行き場がなくなった胆汁の一部は、血液の中に入り込んで腎臓から尿として体外に排出されます。そのため尿の色が濃い黄色に変化します。便の色がおかしいなと思ったら、尿の色にも変化がないかチェックしてみましょう。

 

 

まとめ:ビタミンK2シロップで、赤ちゃんの出血リスクを抑えよう

産まれたばかりの赤ちゃんは、誰もが出血のリスクを抱えています。痛みや辛さ、体の変化を自分で訴えることができない赤ちゃんは、大人がサインを見逃さないことが重症化を防ぐポイント。まずは、定期的なビタミンK2シロップの服用で出血を予防することが大切です。

ビタミンK2シロップや出血に関して不安なことがあるときは、病院で相談しましょう。一番身近にいるママやパパが「おかしいな」と最初に気付けくことができる大人です。「こんなこと相談して大丈夫かな?」と思わずに、心配なことは医療スタッフに相談して赤ちゃんの健やかな成長を守りましょう。

 

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参考文献・参考サイト
1)日本小児科学会 新生児と乳児のビタミンK欠乏性出血症発症予防に関する提言
2)日本産婦人科・新生児血液学会 新生児メレナとはどんな病気ですか?
3)ケイツーシロップの飲ませ方
4)日本小児科学会新生児委員会 [医療者向け]新生児・乳児ビタミン K 欠乏性出血症の予防法に関する Q&A
5)日本胆道閉鎖症研究会 胆道閉鎖症とは

 

この記事の監修

牛丸敬祥  医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長

院長 牛丸 敬祥

経歴

  • 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
  • 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
  • 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
  • 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
  • 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
  • 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
  • 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。