妊婦さんの水分摂取について ~適切な水分補給で快適なマタニティライフを~【医師監修】
- 2025年10月25日
- 更新日: 2025年10月23日
- 医療コラム

「妊娠中の水分ってどれくらい摂ったらいいんだろう?」体重管理や妊娠に足のむくみを感じると、「水分を少し減らした方がいいかな」と思う人もいるでしょう。実はその考えはNG!赤ちゃんとママの健康のためには、妊娠中水分をきちんと摂ることが大切です。
この記事では妊娠中の水分摂取について詳しく解説しています。あまり知られていない妊娠中の水分の重要性について理解を深めていきましょう。
1. 妊婦さんが水分不足になると「どうなる」?ママと赤ちゃんへの影響

1) ママの身体に起こる変化
妊娠すると体温が上昇し、代謝がよくなります。代謝がよくなると汗をかきやすくなり、体の水分が失われやすくなるのです。そのため妊娠中はこまめに水分を摂取することが大切。
発汗だけでなく、妊娠中は赤ちゃんの栄養の元となる血液の量が増えることと、妊娠によるホルモンバランスの変化から水分が不足しやすいといわれています。妊娠中の水分不足は血液をドロドロにしてしまい、血液の塊である「血栓」を誘発してしまいます。血栓が心臓や脳などの血管に詰まると、心筋梗塞や脳梗塞といった重大な病気につながる可能性があり危険です。
ほかにも妊娠中のマイナートラブルであるこむら返りや便秘、むくみが悪化することもあります。さらに頭痛やめまい、立ちくらみなども、水分が不足によって起こる症状の一つです。妊娠中は赤ちゃんの成長だけでなく、ママの体も大切にしたい時期。しっかりと水分を摂取して、ママの体調も整えていきましょう。
妊娠中のつらい便秘については、こちらの記事でくわしく解説しています。
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2)お腹の赤ちゃんへの大切な役割(胎児への影響)
妊娠中にママが摂取する水分は、赤ちゃんにとって重要な役割を果たす「羊水」と「血液」になります。
血液は赤ちゃんが成長するために必要な酸素と栄養を運んでいます。血液の約90%は水分で構成されています。ママの体の水分が不足してしまうと、十分な量の血液を赤ちゃんに送ることができなくなってしまうのです1)。
羊水は赤ちゃんを外部からの衝撃から守るクッションです。さらに羊水があることで、赤ちゃんはおなかの中を自由に動いて筋肉や骨が発達し、羊水を飲み込むことで肺や消化器の成長まで促してくれます。そして羊水には子宮のなかの体温を一定に保つ働きがあり、快適な空間で赤ちゃんが過ごすことができるのです。
もしママの体の水分が不足してしまうと赤ちゃんの成長に影響が出るだけでなく、赤ちゃんが過ごす安全な環境まで侵される危険があります。
2. 妊娠中の水分摂取量、「1日にどのくらい」が目安?

1日の水分摂取量の目安は1.5~2Lほどです。一気に大量の水分を摂るのではなく、気付いた時にコップ1杯(約200ml)を1日に8~10回に分けて、こまめに摂るようにしましょう。
注意したいのが、1日の水分摂取量とは食事に含まれる量以外の水分だということです。
妊婦さんのなかには産院から体重管理を指摘されていたり、体重が増えるのを気にして水分を控えている人もいるかもしれません。しかし水分で太るということはないため、安心して水分を摂取しましょう。太ることを気にするよりも、体の水分が不足することの方が妊娠を継続する上ではとても重要。もし妊娠中の体重の増えが気になって水分すら控えたいと思ったら、飲み物は水やお茶などのカロリーがないものにしましょう。
妊娠してから足が浮腫みやすいと感じていたり、「水分を摂りすぎて赤ちゃんや体に悪いのでは?」と心配になる人もいるでしょう。基本的には腎臓に持病があったり、医師から水分制限をされていない限り、1日1.5~2Lの水分摂取は問題ありません。もし心配なことがあるときは、医師に相談してみましょう。
3. 妊婦さんにおすすめの飲み物

1) 水(常温や白湯)
水は添加物やカフェインが含まれていないため、妊婦さんが安心して飲める飲み物の一つ。「妊娠中の水分は何がいいか」と迷ったら、まずは水を選択するのがおすすめです。
飲む時のポイントは、常温かぬるめのお湯にすること。妊娠中は体温が高くなるため冷たいものがほしくなりますが、氷のたくさん入った冷たすぎる水は体を冷やしてしまいます。もし妊娠中のマイナートラブルである冷えやむくみ、便秘に悩んでいたら、白湯を飲むことで症状の改善が期待できますよ。
2) 麦茶・ノンカフェイン茶
妊娠中に避けたいカフェインが入っていない飲み物には麦茶や黒豆茶などがあります。どれもクセがなく飲みやすいため、好みのものを選びましょう。
ノンカフェインの飲み物で注意したいのがルイボスティーです。ルイボスティーに含まれるポリフェノールには抗酸化作用などの女性にうれしい効果がある一方、妊娠中に大量に摂取すると赤ちゃんの心臓に負担をかけたり死亡したりするケースもあります。そのため妊娠中のルイボスティーは1日に1~2杯程度にしておきましょう。
3) 無糖の炭酸水
つわりがつらい人におすすめなのが炭酸水です。「常に気持ち悪い」「何も食べられない」というつらいつわりでも、炭酸水を飲むことで口の中がスッキリして気持ち悪さがなくなったという人もいます。
妊娠中の炭酸水選びのポイントは「無糖の炭酸水」を選ぶこと。加糖の炭酸飲料には思っている以上に糖分や添加物が含まれています。赤ちゃんとママの健康、そして体重管理を考えるなら、無糖タイプがおすすめです。
4. 妊娠中に控えたい飲み物

妊娠中に控えたい飲み物はこちら
● 糖分の多く含まれるジュースや清涼飲料
● カフェインの多い飲み物(コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなど)
ついつい手が伸びてしまうジュースや清涼飲料には糖分が多く含まれています。赤ちゃんの成長とママの体重管理のためになるべく控えるようにしましょう。
そして、妊娠中にカフェインを大量摂取すると赤ちゃんの成長に影響が出ることや、重大なケースだと流産やおなかの中で亡くなることもあります。赤ちゃんだけでなくママのつわりやむくみ、貧血を悪化させることもあるのです。
しかし妊娠中にカフェインを絶対摂ってはいけないというわけではなく、カフェインレスにするなどの工夫で1日量を守って摂ることはできます。対してアルコールは赤ちゃんに重大な障害が残ることがあるため、妊娠中は絶対禁酒をしましょう。
「妊娠中のカフェインはどれくらい摂れるの?」と疑問に思ったら、こちらの記事を参考にしてください。
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5. 「つわりで水分が取れない…」そんな時の工夫と対策

辛いつわりで、何も口にできないという人もいるでしょう。「赤ちゃんのために水分だけでも摂らないと」と頑張ってしまうかもしれませんが、吐き気が強いときには無理する必要はありません。しかし飲み方を工夫したり、温度や味を変えてみると飲めることもあるため、下の表を参考にしてみてください。
つわりの時期の水分摂取の工夫
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飲み方 |
● 一度に飲まない ● 飲めるタイミングで ● コップではなくスプーンで少しずつ飲む ● 氷片 |
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温度 |
● 冷たい飲み物 ● 温かい飲み物 |
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味 |
● レモン水 ● ミントを浮かべる |
これらの工夫をしてもどうしても水分が摂れないときは、きゅうりやトマト、スイカ、梨といった水分の多い野菜や果物、ゼリー、アイス、スープなどから水分を摂るのもよいでしょう。
妊娠中のつらいつわりについては、こちらの記事でくわしく解説しています。
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6. こんな症状のときは早めに受診を

妊娠中にもしこんな症状が出たら、早めに受診をしましょう。
● 水分が全く摂れない
● 尿の回数や量が極端に減った
● めまいがする
ここまで妊娠中の水分摂取の重要性について説明してきましたが、つわりだけでなく水分が全く摂れない状況が続くと、体に何かしらの異変が出ている可能性が高いといえます。また水分を摂っているにも関わらず、尿の出が悪いときも何らかの異常があるかもしれません。さらにめまいや頭痛などの症状も出ているときには、早急な対応が必要でしょう。
このような状態は赤ちゃんに影響を及ぼすだけでなく母体が危険になることもあるため、早めに病院に受診しましょう。
まとめ:赤ちゃんとママのために、妊娠中の水分摂取は大切
妊娠中の食事や栄養について注目されることが多いですが、実は水分をしっかり摂ることも赤ちゃんの成長と母体の健康のためには重要です。ママが口にする水分は赤ちゃんの成長のための血液、そして体の発達を促し赤ちゃんを守る羊水として生まれ変わります。さらに妊娠中のつらいマイナートラブルも水分を摂ることで改善が期待できます。
目には見えない赤ちゃんの成長のために、そして母体の健康のためにこまめな水分摂取を続けましょう。
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参考文献・参考サイト
1)日本赤十字社 血液の基礎知識
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長

経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。
