妊娠期の便秘~対策を知って快適なマタニティライフを~
- 2025年7月5日
- 更新日: 2025年6月23日
- 医療コラム
便秘は多くの妊婦さんが抱えるマイナートラブルの一つ。妊娠週数によっても、その便秘の原因が変わっていきます。妊娠週数に合わせた便秘の原因を知り、対策をとることで快適なマタニティライフを過ごしましょう。
今回は、妊娠中の便秘の原因や注意点、対策・予防法についてもお伝えしています。便秘によるストレスを軽減させるためにもぜひ参考にしてください。
1. 便秘の原因とメカニズム
1) ホルモンの影響
女性ホルモンには妊娠を維持するという重要な働きがありますが、その影響で妊娠中は便秘にもなりやすくなります。女性ホルモンが便秘をもたらす理由は主に2つです。
1つめは女性ホルモンが妊娠を維持するために、水分を体に溜め込もうとすることです。この働きによって便の中の水分まで体に吸収してしまい、カチカチの硬い便になってしまいます。
2つめに流産・早産の予防のために、子宮の筋肉の動きを抑制することです。子宮と腸の筋肉は同じ平滑筋なので、腸の筋肉まで動きが悪くなってしまいます。
女性ホルモンの影響で硬くなった便は、動きの悪い腸の中を進みずらく便秘になってしまうのです。女性ホルモンは出産に向けて徐々に分泌量が増えていくため、妊娠初期よりも妊娠中期以降の方がホルモンの影響による便秘が起こりやすいでしょう。
2) 子宮の増大
赤ちゃんの成長に伴って子宮は大きく成長します。その影響で周囲の臓器や血管は圧迫されてしまいます。子宮のすぐ近くにある腸は、圧迫によって便の通り道が狭くなってしまうのです。また血管が圧迫されることで生じる「血行不良」は、腸の動きを抑制してしまいます。
子宮が大きくなればなるほどこれら2つの影響は大きく、妊娠後期以降は子宮増大による便秘が起こりやすいでしょう。
2. いつから便秘になりやすい?
1) 妊娠初期
妊娠初期は妊娠特有の原因より、つわりで便秘になりやすい時期です。
食生活によって便通をコントロールするには、食物繊維や乳酸菌などをバランスよく摂ること、そして水分をしっかり摂ることが大切です。しかし妊娠初期のつわりには「決まったものしか食べられない」「水分を摂ることもつらい」など、さまざまなつわり症状からスムーズな排便を目指す食生活を実践することができません。
さらにつわりはママの体にストレスをもたらし、自律神経を乱してしまいます。自律神経と腸は関係が深く、自律神経の乱れともに腸の動きが弱まってしまうのです。
妊娠初期は個人差はありますが多くの人がつわりを経験します。つわりによる便秘を解消することはむずかしいですが、体調がよい時にこの後に紹介するツボ押しや温罨法を実践してみましょう。
2) 妊娠中期
妊娠中期は女性ホルモンの影響を受け始める時期です。「便秘の原因とメカニズム」で解説した通り、女性ホルモンには「便の水分を体に吸収する」「腸の働きを抑制する」といった作用があります。妊娠中期になるとつわりがおさまってくる人が多いので、なるべく水分を多く摂ることが便秘解消のカギです。
しかし安定期に入ったからといって便秘解消のために激しい運動を再開したり、排便時に思いっきりいきんだりすると、切迫流産や早産のリスクが高くなるので気を付けましょう。
3) 妊娠後期
妊娠後期は子宮の大きさが最も大きい時期です。そのため子宮の腸への圧迫が大きく、物理的に便を通過させづらい状況が生まれてしまいます。出産時に分泌量がピークを迎える女性ホルモンも、ママの便通に大きな影響をもたらします。大きくなったお腹によって動くことが大変になり、便秘の原因の一つである運動不足にもなりやすい時期です。
このことから妊娠後期は、妊娠中で最も便秘になりやすい時期だといわれています。この後に紹介する便秘対策をしっかりとすることで、便秘の予防・解消をしていきましょう。
3. 便秘になったときの注意点
1) 無理に出そうとしない
便を無理に出そうと強くいきんだり、長時間トイレに座ったりすることがあると思います。しかしこれらの行為には「痔」を発症させてしまうことがあるのです。妊娠中の痔は便秘と同様に、多くの妊婦さんが抱える悩みです。
さらに、排便時に強くいきむことで、子宮の収縮を促して切迫早産になる危険があります。妊娠後期や切迫流産。早産の診断を受けた方は気をつけましょう。
2) そのまま放置しない
便秘を放置すると、便はどんどん硬くなり便秘がひどくなってしまいます。妊娠中の便秘は、何も対策しなくても改善するということはほとんどありません。むしろ硬くなった便を出そうと強くいきむことで、痔や早産になってしまう可能性があります。腹痛や吐き気などの症状が出ることもあるため、便秘が悪化する前に対処していきましょう。
4. 便秘による関連症状
1) 腹痛
腸に長時間留まった便からはガスが発生し、その影響で腹痛を生じることがあります。中には冷や汗をかくほど強い痛みを感じる人もいます。。
妊娠中にお腹に痛みを感じると「陣痛かな?」と心配になる人もいるでしょう。便秘で痛みを感じる部分は子宮より下の下腹部ですが、区別ができない場合もあります。腹痛が続く場合は、早めにかかりつけの医師に相談しましょう。
2) お腹の張り
妊娠前に「便やガスが溜まっててお腹がパンパン」という経験をしたことがある人もいるでしょう。お腹の張りを感じたら、お腹のどの部分が張っているのか確認しましょう。便秘によるお腹の張りは下腹部ですが、それより上の部分が張るのであれば子宮収縮の可能性があります。子宮の張りは出産が促されることがあるため、張りが続くときは病院に相談しましょう。
3) 吐き気
便秘になると便とガスによって腸内環境が悪化してしまい、その影響で吐き気をもよおすことがあります。妊娠中はつわりや子宮による胃の圧迫など、便秘以外にも吐き気を感じることがあります。便秘以外の原因を取り除くことはむずかしいですが、便秘が原因の吐き気であれば便秘を解消することでおさまるでしょう。
4) 痔
便秘によって痔が発生する原因は、硬くなった便が肛門を通過するときに圧力がかかること、強くいきむことの二つです。妊娠中は便秘と同様に妊娠による体の変化で、痔になりやすいといわれています。もし痔ができてしまうと排便時に痛みが生じ、排便を我慢することでさらに便秘になるという悪循環が生まれかねません。
つらい便秘にくわえて痔でも悩むことがないよう、まずは便秘解消を目指しましょう。妊娠中の痔についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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5. 便秘対策・予防法
1) 食生活の改善
便秘を食事で解消しようと思ったら、便を柔らかくして腸の動きを促す「食物繊維」や腸内環境を整える「乳酸菌」などを取り入れましょう。しかしこれらを多く摂るだけで便秘が解消するわけではありません。さらに食物繊維ばかりとっていると反対に便が硬くなったり、乳酸菌を摂りすぎて下痢になります。
これらの食品を意識しながら、栄養バランスのよい食事を摂ることが大切です。そして朝食は抜かない、3食食べるといった規則正しい食事の習慣も便秘解消には重要です。
また妊娠中は血液の量が増えるため、それに伴って必要な水分量も多くなります。妊娠中に1日に必要な水分は2Lです。体の水分が不足すると、便の水分を吸収して補おうとしてしまいます。便秘予防のためにも水分はしっかりと摂取しましょう1)。
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2) 適度な運動
運動が便秘解消に効果があるといわれる理由には3つの事柄があげられます。
1つめに運動によって消化が促されること。2つめに全身の血液の流れがよくなり、腸の動きが活発になること。3つめに便秘の原因の一つでもあるストレスが、運動によって解消されることです。
妊娠中は体に負担をかけない運動を選びましょう。ヨガやウォーキング、ストレッチなどは、運動による効果だけでなく血の巡りもよくなり、妊娠中のつらい冷えやむくみも解消してくれますよ。さらに妊娠中の運動には適正な体重をキープする、出産に向けた体力維持などの意味もあります。便秘解消だけでなく、出産に備えて運動を適度に続けましょう2)。
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3) つぼマッサージ・温罨法
つわりなどで体調変化がある妊娠中は、便秘を解消したくても食事や運動に力をいれることが難しい時期もあるでしょう。そんな時に手軽に試せる方法がつぼや温罨法です。
【妊娠中でもおすすめの便秘を和らげるつぼ】
つぼの種類 | 効果 | 場所 |
神門(しんもん) | 便秘の原因の一つである「ストレス」を和らげるつぼ。 リラックス効果があり、妊娠中の不眠にも効果があります。 |
手の平を上にして、手首の小指側の窪み |
湧泉(ゆうせん) | 便秘と関係が深い自律神経を整えるつぼ。 妊娠中の辛い冷えやむくみにも効果があります。 |
足の裏の上の方にある窪み (足の指を曲げると見つけやすい) |
つぼは事前に準備をしなくても気付いた時にすぐできるため、妊娠中の体調に左右されずに便秘解消に役立ちます。しかし、紹介した以外の便秘に効果があるといわれるつぼの中には、陣痛を促す作用があるものもあるため注意しましょう。
冷えが解消すると腸の動きがよくなるので、体を温める方法も便秘解消には効果的です。
● ぬるめのお湯にいつもより長めに浸かる
● 妊婦さん用の腹巻を使用する
● 靴下で足元を温める
● 体が温まる食材を使う
● 温かい飲み物を摂る など
これらの方法は、どれも簡単ですぐに生活に取り入れることができます。シャワーで手軽に済ませているという人も、お風呂に浸かることで便秘だけでなくむくみや足先の冷えにも効果的です。また入浴中におへそを中心にゆっくりと時計回りにさするようにマッサージすると便秘解消効果がUPしますよ3)。
5. 薬の使用について
これまで紹介してきた方法を試しても便秘が解消しないときは、病院に相談しましょう。妊娠中に薬を使うことに抵抗がある人もいるかもしれませんが、産婦人科では赤ちゃんに影響のない薬を処方してくれます。
処方される薬の種類は便秘の度合いによってさまざまですが、酸化マグネシウムなどの便を柔らかくする「緩下剤」が処方されることが多いでしょう。下剤のように急におなかが痛くなって便が出るというものではないので、心配しすぎなくて大丈夫です。
わざわざ病院に受診するのが面倒で市販薬を使いたいと思うかもしれませんが、市販薬には妊婦さんが使えない成分が入っていることもあります。病院に受診しなくても妊婦健診のタイミングに医師に相談すると、妊娠中でも安全に飲める薬を処方してくれますよ。
まとめ:早めの対策で妊娠中のつらい便秘を解消しよう
妊娠中の便秘の原因は、妊娠前のように食生活や運動不足だけではありません。妊娠による体の変化による影響が大きいため、妊娠中は便秘しやすいということを意識して早めに対応することが便秘の解消と予防には大切です。
つらい便秘を解消するために食事や運動など日常生活に気を付けることも大切ですが、それでも解消しないときは病院で相談するのがおすすめです。便秘を放置することで痔ができてしまったり、早産や流産といった赤ちゃんの命が危険になったりすることにもつながります。「いつかは解消するだろう」と思わず、妊娠中の便秘は早めに解消しましょう。
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参考文献・参考サイト
1)慢性便秘症に対する食事療法,運動療法,理学療法 第72巻
2)妊産婦の便秘と対処法に関する実態
3)入院妊婦の便秘の現状とつぼ刺激による排便状態の変化 一便秘評価尺度を用いて
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。