完全ミルクのメリット・デメリットとは?赤ちゃん・ママそれぞれの影響について【医師監修】
- 2024年12月28日
- 更新日: 2024年12月13日
- 医療コラム
赤ちゃんを授かったママ・パパにとって、母乳とミルクの選択は多くの親にとって大きな悩みの一つ。母乳が良いのか、ミルクが良いのか、母乳とミルクの混合がいいのか、情報が溢れる中で迷ってしまうこともあるかもしれません。
特に、母乳育児が難しい場合には「完全ミルク」という選択肢が考慮されます。完全ミルクには多くの利点がある一方で、考慮すべきデメリットも存在します。
今回は、完全ミルクのことや、母乳との栄養の違い、ママと赤ちゃんの影響をふまえたメリット・デメリット、そしてどのような家庭に適しているかについて詳しく説明します。ぜひ参考にしてください。
1.完全ミルクとは?人工乳(ミルク)の特徴
完全ミルクとは、赤ちゃんの栄養を母乳ではなく粉ミルクや液体ミルクといった人工乳のみで赤ちゃんを育てる方法です。「完ミ」といわれることもあります。
ミルク(人工乳)は人間由来の母乳とは異なり、牛乳を基本としています。しかし、現代の日本のミルクは母乳の成分に近づけるための研究・開発が進み、栄養価の面では母乳と遜色ないものが増えています。赤ちゃんの成長に必要な栄養素もバランスよく含んでおり、厚生労働省が定める乳児用調製粉乳の規格基準に適合した製品しか販売することができません。
2.母乳とミルクの栄養価の違い
母乳は、赤ちゃんの成長と健康を支えるための理想的な栄養バランスでできています。
母乳には乳糖、タンパク質、脂肪に加え、免疫力を高める抗体など、人工乳では完全に再現できない要素が含まれています。特に、免疫グロブリンやラクトフェリン、オリゴ糖などの成分は、赤ちゃんを感染症から守る重要な役割を果たします。
そして母乳はミルクと異なり、授乳の最初と最後、または赤ちゃんの成長に合わせて成分が変化していくのが特徴です1)。
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ミルクは母乳の成分を参考に作られており、ビタミンやミネラルなど、赤ちゃんに必要な栄養素がバランス良く含まれています。
近年では、母乳に多く含まれるDHAやオリゴ糖などを配合したミルクも販売されており、栄養価の面で母乳にだいぶ近づいていきました。また、鉄分やビタミンDといった一部の栄養素は、母乳よりも多く含まれています。母乳の成分は母親の食生活に影響を受けるため栄養価が変動する一方、粉ミルクは一定の栄養価を提供し続けることができます。
3.完全ミルクのメリット
完全ミルクには、さまざまなメリットがあります。ここでは主な完全ミルクのメリット2)をご紹介します。
1) ママの身体的・精神的な負担が少ない
完全ミルクは母乳と異なり、ママが必ず授乳をしないといけないということがありません。
ママ以外の家族や周囲の大人も授乳が可能なため、ママは休息を取る時間を得やすくなります。また、夜間授乳も交代で行えるため、ママの睡眠時間も確保がしやすいといえるでしょう。
さらに、母乳とは異なり授乳時の痛みやおっぱいトラブル、食事制限などのストレスから解放されるため、ママの育児ストレスの軽減に繋がる可能性もあります。
2)飲んだ量がわかる
完全ミルクでは、母乳とは異なり赤ちゃんがどれだけの量を飲んでいるかを正確に把握できます。哺乳瓶に入れた量と飲み残しが一目でわかるため、赤ちゃんの栄養状態や体重増加を管理しやすくなります。
3)外出時の利便性
完全ミルクは母乳とは異なり、外出時などに授乳場所を心配する必要があまりありません。ものが揃っていればどこでも簡単に授乳が可能です。
4)一定の栄養が保証
一定の栄養価が保証されているため、ママの健康状態や食生活に影響される母乳とは異なり、質の変動を心配する必要がありません。また、服用している薬の影響を受けることがありません。
5)おっぱいトラブルがない
乳腺炎や乳首の痛みなど、母乳に伴うトラブルが発生しないため、母親は身体的な負担から解放されます。
4.完全ミルクのデメリット
完全ミルクを行うためには、デメリット3)についても正しく理解をしましょう。
1) 経済的負担・コストがかかる
完全ミルクは、哺乳瓶や消毒用具などを定期的に買い替える必要があるほか、ミルクを定期的に購入しないといけないという継続的な経済的負担が発生します。近年、ミルク代の値段もあがってきているため、家計の負担となる可能性もあるかもしれません。
2) 授乳に手間がかかる(調乳・消毒・片付けなど)
ミルク授乳は母乳授乳に比べて手間がかかります。粉ミルクを作るためには、哺乳瓶を組み立て、お湯を沸かし調乳し、調乳後は適温まで冷ます必要があります。また、授乳後には哺乳瓶を洗浄・消毒することも必要です。赤ちゃんが小さいうちは、授乳頻度も高いため、毎回の授乳の準備や片付けが煩わしく感じることもあるでしょう。
3) 外出時の荷物が増える
外出時は、オムツや着替えに加えて、哺乳瓶やミルク、お湯などを持ち運ぶ必要があります。特に旅行などの長期外出時には荷物が多くなり、負担に感じる場合もあるかもしれません。
4) 免疫力の低下
母乳には免疫物質が豊富に含まれており、赤ちゃんを病気から守る役割があります。完全ミルク育児ではこの免疫物質を得られないため、赤ちゃんの感染症に対する抵抗力が低下する可能性があります。また、母乳に比べ、完全ミルクはアレルギーになる可能性が高まるともいわれますが、はっきりしたことは分かっていません4)。
5.完全ミルクが適している家庭とは?
ママや赤ちゃんの状況や子育て環境は、ひとそれぞれ異なります。赤ちゃんの栄養は、それらを加味した上で、自分たちにあった最善の栄養方法を見つけることが大切です。
以下にあげる状況の家庭では、完全ミルクが適している可能性が高いと考えられます。
・ママの体調や体質的に母乳育児が難しい場合
・仕事や学業などで、授乳時間が確保できない場合
・精神的な理由で母乳育児に不安を感じている場合
・ママが服薬中で、母乳育児ができない場合
・赤ちゃんが母乳を十分に飲めない場合
まとめ:完全ミルクが適している家庭もあります
完全ミルクは、それぞれの家庭の状況や必要性に応じて選択される育児方法の一つです。育児中に考えや状況が変わることもよくあり、産後すぐから完全ミルクの方もいれば、しばらくしてから完全ミルクになることも少なくありません。
完全ミルクは、栄養管理のしやすさや育児負担の分散化というメリットがある一方で、経済的負担や免疫成分の不足というデメリットも存在します。大切なことは、正しい情報を得た上で、ご自身の状況や考え方に合った方法を選択することです。迷った際は医師や助産師に相談してくみるのもよいでしょう。完全ミルクを選択した際は「母乳はどうする?」についても相談していきましょう。
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出典
1) 長崎医療センター:母乳と人工乳の違いは何?
2) 和光堂 わこちゃんカフェ:粉ミルクのはなし 粉ミルクのメリット
3) Medical Doc:母乳とミルク(人工乳)ってどっちで育てるのがいいの? それぞれのメリット・デメリットを教えて!
4)日本小児科学会雑誌 115巻 8 号:小児科医と母乳育児推進
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。