母乳栄養のメリット・デメリットとは?赤ちゃんとママそれぞれの影響について【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

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母乳栄養のメリット・デメリットとは?赤ちゃんとママそれぞれの影響について【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

母乳栄養のメリット・デメリットとは?赤ちゃんとママそれぞれの影響について【医師監修】

 

「赤ちゃんが生まれたら母乳をあげてみたい」「母乳が一番いいと聞くからおっぱいをのませたい」と思う方がいる一方で、「赤ちゃんに母乳を与えるのは想像がつかない」「母乳を与えることに抵抗がある」などなど、産科の現場ではママひとりひとり、母乳栄養に対する印象や想いが違います。

 

今回は母乳栄養のメリット・デメリットについてそれぞれご紹介します。この記事を参考にして、どのような育児をしていきたいか、自分たちの育児環境に合わせた最適の栄養方法をさがすきっかけにしていただければと思います。

 

 

1.母乳栄養とは

 

母乳栄養とは、赤ちゃんの栄養を母乳で与えることをいいます。

ほぼ母乳だけで赤ちゃんの栄養をまかなうことを「完全母乳栄養」といい、母乳と合わせて人工ミルクも一緒に飲ませることを「混合栄養」といいます。

 

赤ちゃんは離乳食がはじまる生後5~6か月までは、母乳(ミルク)が栄養の中心になります。赤ちゃんに母乳を与えることは、お世話のなかでも一日に多くの時間を費やす育児のひとつです。

 

 

2.母乳栄養のメリット

 

「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養である」1)ということを聞いたことがある人も多いでしょう。実際、母乳栄養は赤ちゃんやママにとって多くのメリットがあります。

ここでは、母乳栄養の具体的なメリットについてご紹介します。

 

1) 赤ちゃんのメリット

病気にかかりにくい、かかっても軽くすむ

初乳(初めて乳腺から分泌される母乳)は子どもにとって最初のワクチンとも言われ2)、発展途上国でも、命に関わる病気から子どもを守るために欠かせないものです。

実際、初乳は分泌型免疫グロブリンAという免疫物質を豊富に含んでおり、未熟な赤ちゃんの免疫力を高めてくれます。また母乳栄養の赤ちゃんは、中耳炎3)が少ないことが報告されています。

 

母乳は赤ちゃんにとって理想的な食品

母乳には赤ちゃんの成長に必要な栄養が多く含まれています。また、赤ちゃんの成長に合わせて母乳の成分も変化するのです。赤ちゃんが成長し、離乳食でも栄養が摂れる時期になると、脂肪分やタンパク質、糖質は減っていきます。

また1回の授乳中にも成分が変化し、飲みはじめは低脂肪で、授乳が終わる頃には脂肪量が増えるのです。

 

赤ちゃんの胃や腸への負担が少ない

母乳は赤ちゃんにとって消化・吸収しやすい構造になっているため、消化不良を起こしにくいです。

 

赤ちゃんがアレルギーになりにくくなる

粉ミルクの主成分は牛乳の蛋白質で、人間の蛋白質とは違うものです。赤ちゃんのなかには、この異種蛋白が体内に入ることで、体内の免疫系を刺激してアレルギーの原因になることがあるとされています。母乳は人間由来の同種蛋白なのでその心配がありません。
また、気管支炎などの発生を抑制4)することも報告されています。

 

お母さんとのスキンシップで安心感が与えられる

 

母乳授乳することで、自然に親子のスキンシップが多くなるため、赤ちゃんは安心感を抱きストレスが軽減しますます。そして、赤ちゃんは自分の要求を聞き入れてもらえたという安心感で、自尊心が育ち、人を信頼する心を育てることができます。

 

脳の発達に影響

ママによって母乳のにおいが違うということが分かっていますが、赤ちゃんは、ママの母乳のにおいを感じることで大脳皮質を刺激します。また、あごを活発に動かす母乳栄養は、脳の発達を促す5)とされています。

 

あごや歯の発達 発語に影響

母乳栄養では、赤ちゃんは大きな口をあけてあごをよく使って授乳するため、あごや顔周りの筋肉が鍛えられ発達します。そのため、かむ力や歯並びもよくなるとされ、発語にも影響があるとされています。

 

乳幼児突然死症候群(SIDS)の防止

母乳育児の方が、原因不明で突然赤ちゃんが亡くなってしまう乳幼児突然死症候群のリスクが少ない6)ことがわかっています。

 

 

 

将来の肥満や生活習慣病の予防

母乳栄養で育った赤ちゃんは、将来肥満や生活習慣病になるリスクが少なくなるという報告7)がされています。

 

 

2) ママのメリット

 

産後の子宮収縮を良くする 母体の回復を早める

授乳によって乳頭が刺激されると、本陣痛でも活躍したオキシトシンというホルモンの分泌が亢進されます。母乳栄養は子宮の収縮をさせ子宮の回復を促し、産後の子宮出血を止める作用があります。

 

 

 

授乳をすることで愛情が増し喜びと自信をもたらす

母乳授乳中に分泌されるオキシトシンは、別名「愛情ホルモン」「幸福ホルモン」ともよばれています。またスキンシップによる安心感を得ることから、赤ちゃんに対する愛情が増してママもリラックスでき、さらにママに喜びや自身をもたらす効果があるとされています。

 

授乳時に手間がかからない

ミルクと違って、準備(ほ乳瓶のセット・調乳・お湯の準備など)や片付け(洗浄・消毒・消毒の準備など)がいらないことも大きなメリット。母乳栄養は、あげたいときにさっと授乳ができます。

 

お金がかからず経済的

母乳はミルクだけではなく、ほ乳瓶や消毒にかかるいっさいのお金がかからないため、経済的です。

 

外出時の荷物が少なくなる

ミルク授乳の際は、荷物が多くなりがちで準備も大変ですが、母乳栄養は授乳ケープといった必要最低限の荷物ですみます。

 

ママが病気にかかりにくくなる。

母乳栄養によって、乳がん・子宮体がん・卵巣がんにかかるリスクが減るという報告がされています。また、閉経後の骨粗しょう症も予防できるといわれています。

 

捨てるのがなくてエコ

ごみがほとんど出ないため、環境にも優しくエコです。

 

災害時にも安心

災害時の避難場所でも、授乳のための準備がほとんどいらず赤ちゃんの栄養が確保できるのは安心です。

 

産後直後の妊娠を防ぎやすい

出産後はいつ妊娠してもおかしくない状態です。母乳授乳は排卵を抑制する効果があるため、出産後すぐの妊娠を防ぐことができ、ママのからだの負担軽減を図ることができます。

 

 

3.母乳栄養のデメリット

 

母乳栄養にはメリットはたくさんあります。しかし、デメリットのあるのも事実。デメリットを紹介するとともに、その解決策についても紹介している項目もあります。それぞれ理解し、母乳栄養の参考にしてください。

 

1) 赤ちゃんのデメリット

ビタミンK2、ビタミンDが不足しがち

母乳にはビタミンK2、ビタミンDが不足しがちです。ビタミンK2の不足は、赤ちゃんの腸管出血等のリスクがあがり、ビタミンDは赤ちゃんの成長に欠かせない成分です。

日本ではビタミンK2の補充を入院中に行うことを推奨しています。ビタミンDはママの食事を気を付ける必要があります。

 

母乳でうつる感染症がある

感染症の中には、母乳を介して感染する感染症が存在します。特に成人T細胞型白血病やリンパ腫(ATL)、HTLV-1関連脊髄症(HAM)を発症するHTLV1というウイルスは母乳を介して感染8)します。

現在妊娠初期にこのHTLV1を検査し、ママがキャリアかどうかをみることが増えてきました。ママがキャリアの場合は、赤ちゃんへの栄養について医師と相談して決めていくことになります。

 

2) ママのデメリット

 

ママしか与えることができず、他人に長時間預けることができない

母乳栄養は、ママしか与えることできないため、赤ちゃんを誰かに預けて長時間外出することが難しくなります。また完全母乳の赤ちゃんは、ほ乳瓶を拒否するケースも多くあります。

そのため、ママが病気のときなども完全隔離が難しい場合もあるのです。いつ何かあってもいいように、完全母乳でも時々、母乳を搾乳しほ乳瓶で与える練習をしておくことをおすすめします。

 

飲んでいる量がわからない

母乳が実際どれくらい飲めているか不安になるママがいます。赤ちゃんの体重増加に不安がある方は、ストレスになることもあるでしょう。心配な方はリース等で赤ちゃんの体重を測ることができるスケールを自宅におき、母乳が安定して出るまで(安心するまで)母乳測定を行うのもよいでしょう。

母乳測定とは、授乳前におむつ交換をした赤ちゃんの体重を測定し、授乳後再度体重(おむつ交換前)を測定し、母乳量を図る方法です。

しかし、母乳測定はあくまで目安。測定は毎回ではなく気休め程度がよいでしょう。

 

授乳間隔がミルクに比べて短い

母乳は赤ちゃんが消化しやすいこともあり、ミルクより腹持ちが悪いとわれています。そのため、ミルクより授乳間隔が短くなります。

 

乳房・乳頭トラブルが起きることがある

母乳栄養よって、乳房・乳頭トラブルが起きる可能性があります。特に乳腺炎は、高熱や疼痛を伴いツライ思いをするママもいます。トラブルが起きそうなときや起きたときは、母乳外来や母乳専門の助産院などに早めに相談しましょう。

 

外出先の授乳場所に困る

外出先の授乳の場所に困る場合があります。授乳ケープは、目立たず授乳ができるアイテムのため、1枚はは用意しておくと安心でしょう。

 

夜間授乳がなかなかやめられない(夜間の頻回授乳)

ミルク栄養の赤ちゃんにくらべ、月齢が経っても夜間授乳が頻繁になるケースが多くなります。お腹が空いているのではなく、ママへの甘えたい・安心したいという精神的な安定を求めることも多いです。

夜間の授乳をなるべく抑えたい、夜間は睡眠時間を確保したいとう場合は、夜間だけミルクにシフトするなどで少しずつ調整するのもよいでしょう。

 

卒乳・断乳を考えないといけない(保育園・仕事復帰のため)

自然に卒乳するのが一番ですが、仕事復帰や保育園に預けるために、計画的に卒乳や断乳をする必要があります。ママにも赤ちゃんにもストレスが最小限になるように、時間をかけて徐々に卒乳できるように計画をたてて実行しましょう。

 

 

まとめ:母乳栄養はメリットが多いが、無理せず育児環境に合った栄養方法を

母乳栄養は赤ちゃんにもママにもメリットがたくさんある栄養方法です。しかし、デメリットもあります。周りの人と比べるのではなく、自分のおかれている育児環境に適した方法を選ぶとよいでしょう。

また、母乳栄養は、最初から順調に進まないこともあります。そのため、無理はせず、焦らずゆっくり母乳に向き合うことも大切です。授乳の時間は赤ちゃんとママにとっても幸せな時間ともいわれています。ぜひ、少しでも楽に育児ができる方法をみつけてくださいね。

 

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出典
1)厚生労働省:母乳育児もバランスのよい食生活のなかで
2)国連WFP:母子にとっての母乳育児の5つの利点とは
3)小児感染免疫第26巻第4号:どうして子どもは中耳炎になりやすいのか?
4)理化学研究所:授乳期の短鎖脂肪酸が子の気管支喘息を改善する
5)生理学研究所:噛めば噛むほど、脳は活発に
6)政府広報オンライン:赤ちゃんの原因不明の突然死 「SIDS」の発症リスクを低くする3つのポイント
7)厚生労働省:〉乳児期の栄養と肥満、生活習慣病との関わりについて
8)HTLV-1情報ポータルサイト:母子感染予防

 

この記事の監修

牛丸敬祥  医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長

院長 牛丸 敬祥

経歴

  • 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
  • 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
  • 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
  • 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
  • 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
  • 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
  • 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。