妊娠中は痔ができやすいってホント?原因と対策について【医師監修】
- 2025年6月14日
- 更新日: 2025年6月2日
- 医療コラム
「妊娠中は痔ができやすい」そんな話を聞いたことはありませんか?実は妊娠中の痔には、妊娠中だからこその理由があります。痔になる原因を知って妊娠中の生活に気を付けることで、妊娠中の痔を防ぐことができるんですよ。
この記事では妊娠中になりやすい痔の原因と対策について解説していきます。ぜひ参考にして健やかなマタニティライフを過ごしましょう。
1. 妊娠で痔になる人は少なくない?!
実は妊婦さんの約85%は痔を発症するというデータもあるほど、妊娠中のマイナートラブルとして痔は多くの人が悩む症状です¹)。
痔には「いぼ痔」「切れ痔」「痔ろう(あな痔)」の3つの種類ありますが、妊娠中の痔のほとんどがいぼ痔です。いぼ痔のなかでも妊婦さんに多いのは、肛門の内側にできる「内痔核」だとされています²
2. 妊娠中できる痔を起こしてしまう原因とは
1) ホルモンの影響
妊娠が成立すると、体のホルモンバランスは大きく変化します。特に妊娠中の痔の発生に影響を与えるのが、妊娠中に分泌量が増える女性ホルモンです。
女性ホルモンには血管を拡張させる作用があります。肛門近くにはたくさんの静脈が存在していて、その静脈もホルモンの影響で太くなります。太くなった肛門付近の静脈は便が通過する際の圧迫を強く受けてしまい、内痔核の元であるしこりが形成されてしまうのです。
2) 子宮の増大
子宮が大きくなると周囲の血管を圧迫してしまい、血液の流れが悪くなります。肛門周囲の静脈も血液が滞りがちになり、そこを便が通過することで通常よりもさらに強い刺激を受けてしまいます。このことが痔が発生する原因となってしまうのです。
妊娠中期~後期にかけて痔が発症しやすいというのも、子宮の増大による影響が大きいといえるでしょう。
3) 便秘
痔の原因は静脈が圧迫されることです。便が柔らかい状態よりも固い方が、静脈の圧迫が強くなってしまいます。便秘は多くの妊婦さんがが悩むマイナートラブルの一つです。妊娠中に便秘が起こりやすい原因は、上で解説した女性ホルモンと子宮の増大が関係しています。
まず一つ目に、子宮によって腸が圧迫されることで腸の動きが悪くなることがあげられます。さらに女性ホルモンにも腸の動きを抑える作用があり、二つの原因で妊娠中は便秘になりやすいのです。女性ホルモンは体に水分を貯め込もうとする作用があります。腸の働きが弱くなると便は腸にとどまり、その間に便の水分が体に吸収されてしまいます。
このことから、水分の少ないカチカチの固い便になってしまうのです。固い便は肛門から出る際に周囲の静脈を強く圧迫します。このことから痔が発生しやすくなるのです。
3. 妊娠中の痔の予防法と対策ついて
1) 食生活を見直す
痔を予防したいと思ったら、肛門の圧迫を軽くするために便を柔らかくするのがポイントです。しかし妊娠中はつわりやお腹が大きくなることによる食事不振など、どの時期も食生活が安定しなく便秘になりやすい条件が揃っています。
そんな食生活が安定しない妊娠中の便秘を解消するには、食物繊維や乳製品、発酵食品を取り入れるのがおすすめです。少しでも食べられると思ったら、果物やヨーグルトなどの食べやすいものを選んで食べると便秘にも効果がありますよ。
また便が固くならないように水分を多く摂ることも心がけましょう。妊娠中の1日の水分の目安は1.5~2Lです。一気に摂るのではなく、気付いた時にちょこちょこ飲むのがおすすめです。
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2) 適度な運動を
妊娠中は運動不足になりがちですが、体を動かさないと血行が悪くなってしまい、肛門近くの静脈も滞って痔になりやすくなってしまいます。運動不足は血行不良だけでなく、痔の原因の一つである便秘にもなりやすくなってしまいます。
妊娠中は体に負担をかけずに血行も促されるヨガやウォーキング、ストレッチがおすすめです。運動をするときは水分摂取も忘れないようにしましょう。妊娠中の運動は、妊娠の経過に影響を与えてしまうことがあります。運動をする前に必ずかかりつけの病院で確認してからおこないましょう。
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3) 姿勢の注意
妊娠中の痔を予防したいと思ったら、姿勢にも気をつけましょう。長時間同じ姿勢をとり続けると血液の流れが悪くなり、痔の原因でもある肛門のうっ血につながります。立ったままの姿勢は肛門への負担がなく痔には関係ないように思えますが、血液の流れを悪くするという点では座ったままと同様に避けた方がよい姿勢です。
仕事などで長時間同じ姿勢をとらなければいけない時は、時々体勢を変えたり、軽い運動を入れたりして、血液が滞らないようにしましょう。
4) 排便習慣の改善
痔を予防するために排便習慣を改善することも、肛門への負担軽減には重要です。
便意を感じたらすぐにトイレに行きましょう。我慢をすることで便が出にくくなり、肛門へ負担をかけてしまうことがあります。そして排便時に強くいきむのはやめましょう。姿勢を前かがみにすると便が出やすくなります。排便後はウォシュレットで肛門を清潔にすることも大切です。
肛門になるべく負担をかけないよう、妊娠中はこれらを習慣づけていきましょう。
5)医師に相談して必要な治療を
「痔かな?」と思っても恥ずかしさや妊娠中はなるべく薬を使いたくないという理由で、受診をしないという人もいるかもしれません。妊娠中の痔は自然治癒することはほとんどありません。反対に痔を放置することで悪化したり感染症を起こしたりすることがあるため、痔に気付いたら早めに医師に相談しましょう。
痔の薬には内服薬のほかに、患部に直接使用する座薬や軟膏、注入薬といった外用薬があります。妊娠中に処方されるのは赤ちゃんに影響が起こりにくい外用薬がほとんどです。また肛門に負担がかからないよう便を柔らかくする薬が処方されることもあります。
痔の受診をしようと思っても「何科に受診すればいいかな?」と迷ってしまう人もいるでと思います。妊娠中の痔は産婦人科で相談すると、産婦人科の医師がしっかりと対処してくれますよ。痔の診察はデリケートな部分なので市販薬で治したいと思う人もいると思いますが、市販薬には妊娠中に使用できない成分が配合されている場合もあります。妊娠中は自己判断で市販薬を使うのは避けた方がよいでしょう。
まとめ:妊娠中の痔を予防するには生活を見直そう
痔は妊婦さんの多くが悩むマイナートラブルの一つです。痔になってしまったことに恥ずかしさを感じて受診を躊躇してしまう人もいると思いますが、妊娠中の痔は多くの妊婦さんが抱える悩みです。「痔になったかも」と思ったら、早めに相談することが、悪化しないためには重要です。
痔は妊娠中の体の変化によって起こりやすい病気ですが、毎日の生活に気を付けることで予防ができます。特に食事や水分、運動は痔を予防するだけでなく、妊娠中の体重管理や赤ちゃんの健やかな成長にもつながります。妊娠中の生活に気を付けて、辛い痔を予防していきましょう。
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参考文献・参考サイト
1)The significance of detailed examination of hemorrhoids during pregnancy
Poskus, T. et al: BJOG, 13: 1666, 2014.
2)兵庫医科大学病院 痔核(いぼ痔)
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。