産後の発熱、産褥熱(さんじょくねつ)について知っておきたいこと【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

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産後の発熱、産褥熱(さんじょくねつ)について知っておきたいこと【医師監修】|ガーデンヒルズウィメンズクリニック|福岡市中央区の産婦人科

産後の発熱、産褥熱(さんじょくねつ)について知っておきたいこと【医師監修】

 

出産後は体力が戻らず、普段は感じない体調の変化に戸惑うお母さんも多いことでしょう。また、この時期に高熱が続いて体調不良を感じるママも少なくありません。産後の発熱は決して珍しいことではありませんが、中には産後に起こる深刻な感染症が原因である「産褥熱」の場合もあります。
この記事では、産褥熱の定義や原因、症状から治療方法まで、産後のママとご家族が知っておくべき重要なポイントを詳しく解説いたします。適切な知識を身につけることで、早期発見・早期治療につなげましょう。

 

 

1. 産褥熱とは

 

出産を終えたママの体は、交通事故に遭ったのと同じくらいのダメージを受けていると言われることがあります。そんな満身創痍の状態で、24時間体制の育児がスタートするわけですから、体調を崩しやすいのは当然のことかもしれません。

しかし、産後の発熱すべてが「疲れ」や「風邪」で片付けられるわけではありません。中には、適切な医療介入が必要な感染症が含まれているのです。まずは、「産褥熱」という言葉の意味と、医学的にどのような状態を指すのかについて、正しく理解することから始めましょう。

 

1) 産褥熱の定義

産褥熱の正しい読み方は「さんじょくねつ」です。この疾患は、産後に起こる感染症による発熱状態を指しており、産後の女性にとって重要な健康問題の一つとなっています。

まず「産褥期(さんじょくき)」とは、出産後6週〜8週間の体が回復していく期間を指します。この期間のうち、出産24時間後から10日以内に、38.0℃以上の発熱が2日以上続く状態を医学的に「産褥熱」と定義しています1)
単発的な発熱や軽度の体温上昇とは明確に区別され、継続する高熱が特徴的な所見となります。産後の回復過程における正常な変化と病的な状態を見分けるための重要な指標でもあるのです。

 

2) 産褥期における発熱の意味

産後の体は出産により大きなダメージを受けており、特に子宮や産道の傷から細菌感染を起こしやすい状態にあります。分娩という大きな身体的ストレスにより免疫機能も一時的に低下するため、感染に対する抵抗力が弱くなっているのが特徴です。

正常な産後経過では軽度の発熱は見られることがあります。これは身体の回復過程や乳汁分泌の開始などに伴う生理的な変化の場合もあるためです。しかし、38℃以上の高熱が持続する場合は病的な状態として医学的な対応が必要になります。
このような発熱は、体内で何らかの感染が進行している警告サインでもあり、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、決して自己判断せず、早めに専門医に相談しましょう。

 

 

2. 産褥熱が起こる原因

 

産褥熱はなぜ起こるのでしょうか。出産という生理的なプロセスの中で、女性の体には様々な変化が生じます。この過程で感染の機会が増加し、普段は問題とならない細菌が病原性を発揮することがあります。産褥熱の原因を理解することは、予防と早期対応のために非常に大切です。

 

1) 感染経路と細菌の種類

産褥熱の主な「原因」は、分娩の過程で産道や子宮の内部に細菌が入り込み、炎症を起こすことです。

 

感染を引き起こす主な細菌(起因菌)

大腸菌
溶血性連鎖球菌
黄色ブドウ球菌
嫌気性菌
クラミジアなど

 

これらの菌の名前を見て、「どこから感染したのだろう?」と不安に思うかもしれません。しかし、実はこれらの細菌の多くは、もともと私たちの膣内や腸内、皮膚などに存在している「常在菌」であることがほとんどです。 普段、健康な時はこれらの菌が悪さをすることはありません。

ころが、前述したように分娩によって母体の抵抗力が落ちていたり、子宮内に大きな傷があったりすると、これらの常在菌が異常に増殖し、病原性を発揮して感染症を引き起こしてしまうことがあります2)。これを「上行性感染(じょうこうせいかんせん)」と呼び、膣から子宮、さらにはお腹の中へと感染が広がっていくのが特徴です。

 

2) 感染を引き起こすリスク

すべての産婦さんが産褥熱になるわけではありませんが、分娩の状況によっては感染のリスクが高まることがあります。

例えば、お産が長時間に及んで体力が落ちているときや、陣痛が来る前に破水(前期破水)をして細菌の侵入経路ができてしまった場合などは、細菌に対する抵抗力が弱まっているため特に注意が必要です。また、お産の進み具合を確認するための内診の回数が多かったり、出産後に胎盤や卵膜の一部が子宮内に残ってしまったり(胎盤遺残)することも、細菌が増殖するきっかけになり得ます。

さらに、最近増えている「帝王切開」もリスク要因の一つです。帝王切開はお腹を切る手術ですので、お腹の中へのダメージ(手術侵襲)が避けられず、自然分娩(経腟分娩)に比べて感染のリスクが高くなる傾向があります。そのため、術後は傷口の管理を含め、より慎重な感染予防が行われます。

 

 

3. 産褥熱の症状

 

産褥熱の初期症状は、見逃しやすいものから始まりますが、放置すると全身症状に発展し、命に関わるケースもあります。些細な変化に気づけるよう、代表的な症状を紹介します。

 

1) 初期症状から進行症状まで

主な初期症状は38℃以上の発熱です。悪寒や全身のだるさ(倦怠感)も伴うことが多いです。初めは「ちょっとした風邪かな」と思いがちですが、症状が進行すると、下腹部の痛み、悪露(おろ:産後の血液や分泌物)の量が増えたり、悪臭がしたり、色が変わったりする異常がみられます。さらに重症化すると、心拍数が増える(頻脈)、血圧低下、場合によっては意識がぼんやりする(意識障害)などの全身症状が出現し、敗血症という危険な状態へ発展する可能性もあります3)
こうした症状変化があれば、速やかに医療機関の受診が必要です。

 

 

2) 局所症状の特徴

感染がどこで起きているかによって、特定の場所に症状が現れることもあります。これを局所症状と呼びます。

感染が子宮内で発生している場合には、お腹の下(下腹部)に痛みや圧痛を感じたり、子宮を押されると痛いといった局所症状が現れます。悪露の性状の変化とあわせて、これが子宮内感染のサインです。一方で、会陰切開や帝王切開の手術創が感染すると、傷口が赤く腫れて熱をもち、膿が出ることもあります。また、乳腺炎が産褥熱の原因となる場合は、乳房が赤く腫れて痛み、しこり(硬結)が感じられます。

これらの局所症状を観察することで、医師は「どこで感染が起きているか」を推測し、診断の助けとすることができるのです。

 

 

4. 診断の流れと検査

 

「産褥熱」の診断には、まず症状や身体所見の確認から始まります。発熱のほか、血液検査で白血球数の増加やCRP(炎症の程度を示すマーカー)の上昇を検査します。また、感染源となる細菌を特定するために、血液や悪露、創部などの培養検査が行われることも。さらに、子宮内の異常(胎盤遺残や膿のたまりなど)を確認するために超音波検査も活用されます。

なお、産後発熱のすべてが産褥熱とは限りません。医師による総合的な判断が欠かせないため、正しい診断をもとにした適切な治療が大切です。

 

 

5. 治療方法

 

産褥熱は原因菌に応じた抗生剤の投与が基本です。比較的軽症であれば、飲み薬(経口抗生剤)による治療で経過をみます

一方、重篤化した場合や全身症状が強い場合には、点滴(静脈内投与)で広範囲の菌に効果をもつ抗生剤を用いることが多くなります。治療中は水分補給を十分に行い、必要に応じて解熱剤で発熱をコントロールしながら、安静にして体力回復を図ります。

重症例や合併症がある場合には、輸液による脱水補正や、栄養状態の管理、そして胎盤遺残が疑われた場合には外科的な処置(子宮内容除去術)が検討されることも。入院が必要となることもありますが、早期治療で重症化を防ぐことが重要です。

 

 

6. 日常生活での注意点

 

産褥熱は早期発見・早期治療がカギとなります。そのためには、退院してからのご自宅でのセルフチェックが非常に大切です。赤ちゃんのお世話で手一杯になりがちですが、ママ自身の健康も赤ちゃんを守るためには欠かせません。日常生活で特に気をつけていただきたい点は以下の通りです。

 

検温

産後は、体の不調を感じたら必ず体温を測る習慣をつけましょう。特に夕方から夜にかけて熱が上がりやすいため、決まった時間に測定することをおすすめします。「38℃以上の発熱」があった場合は、解熱剤で様子を見過ぎず、医療機関へ相談してください。

 

体のサインを見逃さない

悪露の量がいきなり増えた、色が鮮やかな赤に戻った、嫌なにおいがする、下腹部が痛むといった症状は、子宮からのSOSです。また、具体的な痛みがなくても、「食欲がない」「体がだるくて起き上がれない」といった全身倦怠感も、感染の初期兆候である可能性があります。

 

我慢せずに受診する

「次の検診まで待とう」と自己判断するのは危険です。発熱や異常な症状を認めた場合は、速やかに出産した産婦人科や最寄りの医療機関を受診してください。特に、悪寒を伴う急激な発熱や意識がぼーっとするような場合は緊急性が高いです。夜間や休日であっても、救急外来への受診を検討し、専門医の適切な評価を受けることが、重篤化を防ぐための最大の防御策となります。

 

 

まとめ:産褥熱は早期発見と治療で防げる産後感染症です

産褥熱は、「産後の発熱=すべて危険」というわけではありませんが、38℃以上の高熱が続ける場合や、悪露や下腹部の異常、全身に及ぶ症状がみられた場合は、早めの受診が重要です。とくに帝王切開や長時間分娩などのリスク因子がある場合は注意しましょう。

適切な検査と治療を受けることで、多くの方が無事に回復しています。産後はご自身の体の変化を大切に観察し、異常時には我慢せず、速やかな医療機関受診を心がけてください。

 

 

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参考文献・参考サイト
1)日本医科大学多摩永山病院:周産期看護マニュアル「産褥熱」
2)MSDマニュアル家庭版:分娩後の子宮感染症
3)杏林大学:産科感染症の管理と治療

 

この記事の監修

牛丸敬祥  医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長

院長 牛丸 敬祥

経歴

  • 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
  • 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
  • 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
  • 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
  • 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
  • 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
  • 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。