スムーズな母乳授乳と安産のため、妊娠中に行う「乳頭マッサージ」の効果と方法について【医師監修】
- 2025年6月7日
- 更新日: 2025年6月9日
- 医療コラム
乳頭マッサージは、出産が近づいてきたら取り入れてほしいケアの一つ。「産後から乳頭マッサージを始めるのでは遅いの?」と思う人もいると思いますが、産後にスムーズな母乳育児をするために妊娠中から始めるのがおすすめです。さらに乳頭をマッサージした刺激で、出産が促されるといううれしい効果も。
今回は、妊娠中に行う「乳頭マッサージ」の効果とそのメカニズム、また乳頭マッサージの具体的な方法もお伝えします。ぜひ参考にして産後の母乳育児に備えていきましょう。
1. 乳頭マッサージの目的とは
1) 母乳育児の準備
生まれたばかりの赤ちゃんは、口が小さくで力も弱く、上手に母乳を飲むことができません。乳頭マッサージをして乳頭と乳輪をケアをしておくことで、赤ちゃんの授乳がスムーズにいくことが期待できます。
乳頭や乳輪を柔らかくし伸びをよくする
赤ちゃんがくわえやすいおっぱいとは、柔らかく良く伸びる乳頭・乳輪であること。硬いままの乳頭では母乳の出が悪く、おなかがいっぱいになる前に赤ちゃんは疲れて寝てしまいます。十分におなかが膨れていないまま寝てしまうと、短時間で起きてしまったりグズグズと機嫌が悪くなったりする原因になってしまいます。また、陥没乳頭や扁平乳頭のように乳頭の長さが短いママも、乳輪を柔らかくすることで赤ちゃんがよりくわえやすくなるのです。
さらに、乳頭が硬いまま授乳をすることは、乳頭の亀裂や水泡れができる原因の一つです。乳頭・乳輪が柔らかく伸びのよい状態にするには時間をかけてマッサージすることが必要です。おっぱいのトラブルを回避して赤ちゃんがおなかいっぱい母乳を飲んで成長するためにも、出産が近づいてきたらおっぱいマッサージをしていきましょう1)。
乳管の開通を促す
乳管とは母乳の通り道のことです。普段は乳管は使われないため、出産前に乳頭マッサージで乳管を開通しておくことが産後の母乳育児をスムーズにすすめるポイントです。
もし産後に乳管が開通しないと、せっかく作られた母乳が外に出ることができません。おっぱいの中に余分に母乳がたまってしまうと「乳腺炎」の原因になってしまいます。痛みや腫れで辛い乳腺炎を予防するためにも、乳頭マッサージは乳管開通マッサージとしてお大切なケアです。
心理的準備
妊娠中の乳頭マッサージは赤ちゃんがおっぱいを吸うイメージがわき、母乳育児に対するママの心の準備もできていきます。
今まであまり気にしていなかった自分の乳頭の形を知ることで「赤ちゃんが母乳を飲みやすくするためにはどうすればいいかな?」と考え、準備をする時間を持つこともできるでしょう。乳頭の形は人それぞれ違います。妊娠中から助産師さんと相談して自分にあった乳頭のケアをすることで、赤ちゃんが咥えやすいおっぱいに近づくことができますよ。
2) お産に向けての準備
実は乳頭マッサージには母乳育児以外にも、お産に向けて準備するという目的があります。マッサージの刺激によって分泌される「オキシトシン」は、出産を進めるためにとても重要な役割をするホルモンです。ここからは乳頭マッサージがお産に向けてどのような影響があるのかについて解説していきます。
子宮頸管の熟化
乳頭マッサージの刺激で分泌されるオキシトシンには、子宮収縮を促す役割があります。子宮収縮を促すことで、結果的に子宮の入り口である子宮頸管を柔らかくする効果が期待できるのです。
陣痛促進
オキシトシンには子宮の収縮を促す役割があるため、乳頭マッサージをすると「お腹が張る」と感じるでしょう。出産がスムーズに進むためには子宮の入り口が開くだけでなく、子宮が収縮して赤ちゃんの体を進めてあげることが必要です。
さらにオキシトシンは母乳とも深い関係のあるホルモンです。出産前の乳頭マッサージは産後の母乳育児にもしっかりつながっています2)。
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2. 乳頭マッサージはいつからはじめる?
乳頭マッサージを始める時期は、妊娠37週(妊娠10カ月)以降の臨月にはいってからです。
妊娠の経過や帝王切開での出産予定の方、妊娠の経過によっては開始時期が前後することがあります。乳頭マッサージを始める前にかかりつけの病院で確認しましょう。臨月より早い時期の乳頭マッサージは、流産や早産のリスクが高くなるため避けましょう。
産後の母乳育児のために早い時期から備えたいと思ったら、乳頭の保湿がおすすめです。乳頭は皮膚が弱いため、保湿をしっかりしておくと産後の皮膚トラブルを防ぐことができますよ。
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3.乳頭マッサージの方法
1) 乳頭マッサージを行う前に
乳頭マッサージを行う前に、まず自分の手を確認してみましょう。
・爪が長くはないですか?
・手は清潔にしていますか?
乳頭の皮膚は薄くデリケートな部分です。少しの刺激で傷ができてしまうため、マッサージの前には手と爪を清潔にしておきましょう。
乳頭マッサージをおこなうタイミングは、入浴中や入浴後がおすすめです。入浴によって柔らかくなった乳頭は、マッサージの効果をより得ることができます。
2) 乳頭マッサージの方法
乳頭マッサージで使用するオイル
乳頭マッサージをする際は、保湿クリームやオイルを使用しましょう。やさしくマッサージできるだけではなく、保湿もきるためおすすめです。使用するオイルは、出産後も赤ちゃんの口にいれても大丈夫な、乳頭専用の保護クリームやオイルを使用するとより安心でしょう。乳頭ケアは、妊娠前だけではなく、産後しばらくは意識していきたいケアになります。
乳頭マッサージの具体的な方法と頻度
乳頭マッサージは、妊娠37週以降で、医師の許可を得ることができたら始めましょう。
はじめのうちは片方5分ずつを1セット。慣れてきたら、一日数回行うとより効果を実感できます。マッサージは以下の①~③の順で行いますが、痛みがある場合はそれ以上は進まず、慣れるまで同じマッサージを繰り返しましょう。
【乳頭マッサージ方法】
①乳輪の周りに5本の指をあてて、乳輪の奥を強く圧迫する
②奥で圧迫したまま、指を中心に集合させ、乳輪・乳頭を包み込むようにやさしく圧迫する
③5本の指で 乳首を軽く圧迫しながら、ゆっくり前に引き出す(しごく)
4. 乳頭マッサージの注意するポイント
1) 開始前に必ず医師や助産師に相談を
乳頭マッサージの刺激で、ママの体はお産の準備を整えようとします。そのため帝王切開の予定がある方は、帝王切開前に子宮が収縮してお産が進むことがあるため注意が必要です。
予定帝王切開以外の方でも妊娠の経過や病院によっては乳頭マッサージを開始する時期が決まっている場合もあります。乳頭マッサージをはじめる前に、まずは病院に確認するのがよいでしょう。
2) 過度な刺激は避ける
乳頭の皮膚は薄いため、乾燥や少しの刺激で傷ついてしまいます。傷ができてしまうと産後の授乳の際に痛みが生じたり、傷から菌が入ってしまうこともあるため注意が必要です。乳頭マッサージは痛いと感じない程度の力でおこないましょう。ゆっくり呼吸をしながら行うことがおすすめです。
5. 乳頭チェックを受けよう
乳頭の形は人それぞれ違います。乳頭の形を助産師さんにチェックしてもらうと、それぞれの乳頭に合ったケアを教えてもらうことができます。
乳頭マッサージをしていて「やり方が合っているのかな?」と心配になったり、マッサージで痛みや違和感があるときは医師や助産師に相談しましょう。
まとめ:妊娠中の乳頭マッサージでスムーズな母乳育児をはじめよう
生まれたばかりの赤ちゃんにとって、母乳を飲むのは大仕事です。赤ちゃんがしっかりと母乳を飲んで成長するためには、出産前から乳頭と乳輪のケアをしておくことが大切です。赤ちゃんがくわえやすいフワフワな柔らかい乳頭を目指して、妊娠中から乳頭マッサージをしていきましょう。
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参考文献・参考サイト
1)日本助産学会誌 乳頭マッサージが産褥 1-4 日目の乳頭亀裂の予防に及ぼす効果の検討
2)子宮頸管成熟と陣痛誘発のための乳房刺激
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。