産後の産後の会陰部の痛みを和らげるには?具体的なケアについて【医師監修】
- 2025年5月17日
- 更新日: 2025年5月9日
- 医療コラム
産後の辛い症状の一つに「会陰」の痛みがあります。産後の会陰痛の原因はさまざまです。辛い産後の会陰痛をどうすれば和らげることができるのか?
この記事では会陰の痛みに悩むママにぜひ実践してほしい対処法を紹介していきます。
1. 産後の会陰部痛の原因とは
産後の会陰部痛の原因には以下のようなものがあります。
● 会陰裂傷・会陰切開
● 縫合部や治癒過程の痛み
● 分娩時の圧迫による腫れ
それぞれ詳しく解説していきます。
1) 会陰裂傷・会陰切開
会陰とは膣と肛門の間の部分のことで、お産が急速に進んでしまうと会陰に負担がかかり裂けてしまうことがあります。これを「会陰裂傷」をいい、会陰裂傷を防ぎつつ赤ちゃんがスムーズに出てこれるように会陰をはさみで切ることを「会陰切開」といいます。
お産では会陰が十分に伸びて裂けないように注意していますが、急速にお産が進んでしまったり、赤ちゃんの頭が大きかったりすると、会陰が裂けてしまう恐れがあるのです。このような状況で必要だと判断した場合にのみ、医師が会陰切開をおこないます。
会陰切開の傷はだいたい2~3センチ程度で、会陰裂傷と比べると産後の経過はよいとされています1)。また、会陰部の腫れがひくと傷の部分は小さくなることがほとんどです。
2) 縫合部や治癒過程の痛み
会陰切開は局所麻酔をしてから会陰部を切るため、切る時の痛みはほとんど感じません。縫合は10分程度で終わることがほとんどで、麻酔が効いている間に行います。
出産直後は縫合をした部分に、痛みと腫れ、違和感を感じます。これらの症状は徐々に治まっていきますが、腫れがおさまることで糸のつっぱり感が気になることがあります。人にもよりますが、会陰部の傷が完全に気にならなくなるまでには1か月程度かかる場合もあります。
3) 分娩時の圧迫による腫れ
分娩時に会陰が赤ちゃんの頭に圧迫されるたり伸びたりすることで、産後は会陰周辺にむくみや腫れの症状がでます。産後直後に最も腫れが強くなり、数日~1週間経つと徐々におさまってきます。もし産後数日経っても腫れがおさまらずに痛みや発熱を伴うときは、会陰に感染が起こっている可能性があるため医療スタッフに相談しましょう。
2. 産後の会陰部痛の緩和方法
1) 円座クッションを使用する
椅子に座ると傷や腫れている部分が座面に触れて痛みが出てしまうため、会陰の負担を軽くするために産後は円座クッションを使いましょう。
円座クッションは中央に穴があいているため、会陰が座面に触れることなく座ることができます。円座がないときは、タオルで丸い形を作ってお尻の下にしくだけでも会陰への負担が軽くなります。また妊娠・出産で痔になってしまったという方にも、円座はおすすめです。
2) 患部を冷やす
会陰の痛みは、冷やすことで和らぎます。また腫れとむくみにも効果が期待できます。
しかし、冷やしすぎると血液の流れが悪くなり、傷の治りが遅くなる可能性があるため注意しましょう。会陰部の冷やし方は、水で濡らした冷たいタオルやアイスノン、クーリング用の湿布などを当てます。患部を冷やす際は医療スタッフに相談しましょう。
3)鎮痛薬を使用する
会陰の痛みは時間とともによくなることが多いといわれています。しかし、痛みが強いママの状態が続くと赤ちゃんのお世話が十分にできないだけでなく、産後の体の回復も遅らせてしまいます。
「母乳から薬の成分が赤ちゃんに移行するのではないか?」と心配になるママもいると思いますが、授乳中でも服用できる鎮痛剤があるので大丈夫です。痛みがあって辛いときは、我慢せずに医療スタッフに相談しましょう。
3. 産後の会陰部痛を早く治すには
1) 清潔を保つ
出産時に会陰裂傷や会陰切開をしていなくても、小さな傷ができていることがあります。そのため、産後は会陰を清潔に保って感染予防と産後の回復を早めましょう。
会陰を清潔に保つために、まず産褥パッドはこまめに交換するのが基本です。トイレの後はウォシュレットで洗い流すか、洗浄綿で拭いて会陰の清潔を保ちましょう。シャワーの際はゴシゴシ洗わずに、泡立てたボディソープでなでるように優しく洗います。
2) 会陰部に負担をかけない
会陰に負担がかかってしまうと、傷の回復に遅れが生じてしまいます。座るときは円座を使用し、寝る時ときは横向きになって会陰への負担を軽くしましょう。
実は産褥期は妊娠・出産の影響で骨盤が緩んでいて、子宮などの臓器が下におりてきやすく、会陰に負担がかかりやすい状態なのです。そのため産後しばらくは安静にし、動きすぎないことが会陰に負担をかけないために大切です。
3) 締め付けない衣服を着用
締め付けの強い衣服を着用すると、血液の流れが滞り会陰の回復を妨げてしまいます。
「早く体型を戻したい」という気持ちからガードルやコルセットなどでお腹を締め付けてしまうと、会陰の回復を遅らせてしまいます。産後はなるべく締め付けの少ないゆったりとした下着や洋服を選びましょう。
4) 排泄時の工夫
会陰裂傷や会陰切開をすると「便を出すときに傷が開いてしまうのでは?」と心配になってしまう方もいます。しかし、排便時にいきんでも、傷が開くことはありません。
ママのなかには排便を怖いと思ってトイレを我慢してしまったり、赤ちゃんを優先して水分摂取ができなかったりする人がいるのも事実です。このような行動は便を固くしてしまい、排便時の会陰への負担が大きくなってしまいます。痛みや違和感があるうちはなるべく便を柔らかくコントロールして、排便時の不安を減らす生活を心がけましょう。
水分をこまめに摂る、食物繊維や乳酸菌などを積極的に摂る、トイレを我慢しないことに気を付けて、それでも便が出にくいなと思ったら医師に相談しましょう2)。
5) 軟膏を使用する
産後の会陰の状態によっては、抗菌作用や抗炎症作用のある軟膏が処方されることがあります。
軟膏が処方されたら塗布する前に会陰を洗浄してきれいにし、使用方法を守って塗布しましょう。また会陰の痛みや違和感などが気になったからといって、自己判断で市販薬を塗るのはやめましょう。
4. 医療機関を受診するときの目安
会陰に関連した症状が出た場合の、受診の目安は以下を参考にしてください。
● 会陰部の痛みがどんどん強くなる
● 縫った部分から膿や出血がある
● 高い熱が続く
● 会陰の痛みや腫れが原因で、排尿や排便をするのがむずかしい
これらの症状が1カ月健診までの間に起こったら、原因は出産に関係したものがほとんどです。出産した産院・病院に相談し、受診しましょう。
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まとめ:会陰の回復には安静が重要
会陰裂傷、会陰切開の傷や出産時の影響による会陰の腫れなどの回復には、ママの体を安静にすることが大切です。全身の血液をしっかり巡らせること、会陰を清潔にすること、会陰に負担をかけないことで傷の治りが早くなります。会陰の傷は自然に回復することがほとんどですが、痛みが続く、高熱が続くなど心配な症状があるときには我慢せず医療スタッフに相談しましょう。
出産という大仕事を終えたママには、これから赤ちゃんとの生活が待っています。
痛みによる辛い時間が続くことなく産後の赤ちゃんとの生活を楽しめるよう、痛みをコントロールしていきましょう。
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参考文献・参考サイト
1)MSDマニュアル 会陰切開
2)徳島大学 産褥期における排便困難の実態
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。