臍帯下垂・臍帯脱出について 〜早めの発見と対応が大切〜【医師監修】
- 2025年7月26日
- 更新日: 2025年7月17日
- 医療コラム
臍帯下垂と臍帯脱出は、出産の際に赤ちゃんの命が危険になる重大な合併症の一つです。臍帯下垂になっていても、ママは異常に気付くことはほとんどありません。では臍帯下垂・臍帯脱出になってしまったら、赤ちゃんの命を守るためにどうすればよいのでしょうか?
この記事では臍帯下垂・臍帯脱出とはどのような状態なのか、原因や赤ちゃんに与える影響・対処法について解説します。
1. 臍帯下垂とは?
臍帯(さいたい)とは、「へその緒」のことで、ママと赤ちゃんは臍帯によってつなげている、大切な器官です。臍帯は赤ちゃんが成長するために必要な栄養や酸素を送り、不要になった老廃物をママの体へ送り返す大切な役割をしています。
産後に不要となる臍帯は、出産で赤ちゃんが産まれた後にママの体の外に出てきます。しかし、赤ちゃんの頭よりも先に子宮の入り口まで臍帯が降りてきてしまうことがあります。この状態が「臍帯下垂(さいたいかすい)」なのです。
この状態で破水してしまうと次に解説する「臍帯脱出」になり、赤ちゃんの命が危険になる可能性があります。
2. 臍帯脱出とは?臍帯下垂との違い
臍帯下垂の状態で破水をしてしまうと、羊水が体外へと流れる勢いで臍帯が赤ちゃんよりも先に膣内に降りてしまいます。これが「臍帯脱出」です。
臍帯脱出になると赤ちゃんとママの骨盤によって臍帯が圧迫されてしまいます。臍帯が圧迫されると赤ちゃんに酸素を送ることができなくなり、胎児仮死(たいじかし)や胎児死亡といったリスクが高くなるのです。そのためもし臍帯が脱出してしまったら、赤ちゃんの命を守るために緊急で帝王切開をおこないます1)。
3. 臍帯下垂・臍帯脱出が起こる原因とは?
1) 逆子
赤ちゃんは出産が近づくと子宮の入り口に頭を向ける「頭位」とよばれる状態になります。しかし赤ちゃんの頭が反対側にある逆子(骨盤位)の状態では、頭が子宮の入り口をふさいでいないため臍帯が子宮口付近に降りていきやすくなってしまうのです。
2) 多胎
多胎妊娠とは、2人以上の赤ちゃんを妊娠することです。2人以上の赤ちゃんをお腹のなかで育てるために、赤ちゃんが一人の場合よりも、子宮が大きく成長します。子宮が大きく成長した結果、子宮の入り口に空間ができてしまい臍帯が降りやすい状況が生まれてしまうのです。
また多胎児妊娠の場合、赤ちゃんの数に応じて胎盤が作られることがあります。子宮の空間が広いこと、臍帯の本数が増えることによって、多胎妊娠では子宮の入り口に臍帯が降りる可能性も高くなるのです。
3) 破水
破水は赤ちゃんを包む卵膜が破れて、中の羊水が体外へと流れだす状態のことです。羊水が流れる勢いで、臍帯が子宮の入口へと移動してそのまま膣へと降りて行ってしまうことがあります。臍帯が子宮のなかで留まっていれば子宮下垂の状態ですが、臍帯が膣へと降りてしまうと臍帯脱出となり赤ちゃんの命が危険になる可能性が高いため早急に対処しなければいけません。
4) 羊水過多
羊水過多とは、子宮のなかの羊水が通常よりも多い状態のことです。羊水の量に伴って子宮も大きくなるため、出産近くになっても赤ちゃんが自由に動ける空間が広くあります。子宮の入口付近の空間が広いこと、そして赤ちゃんが自由に動くことで、臍帯が赤ちゃんより下に降りてしまい臍帯下垂となる可能性が高くなってしまうのです2)。
5) その他
これまでに解説した臍帯下垂の原因は、妊娠によるものが原因となっています。しかし妊娠中や出産時の医療行為によって臍帯下垂を招いてしまうこともあるのです。
例えば、医療者が必要時に人工的に卵膜を破る「人工破膜(じんこうはまく)」という医療行為があります。人工破膜をおこなうと羊水が一気に体外へと流れ出すのですが、その影響で臍帯も子宮から膣へと移動してしまうことがあります。
そのほか羊水検査や子宮の入口を広げる処置、出産をスムーズに進めるために赤ちゃんをサポートする医療行為などによって、本来起こるはずのない臍帯下垂を誘発してしまうことが、稀ですが起こることがあるのです3)。
4. 症状・兆候とは?
臍帯下垂になったとしてもママが何かしらの異変を感じることはほとんどなく、胎児心拍モニターによる赤ちゃんの心拍の異常から臍帯下垂を疑うことがほとんどです。まれに医師が内診した際に、臍帯が触れて分かることもあります。
5. 臍帯下垂と臍帯脱出のリスクとは
1) 赤ちゃんのリスク
臍帯下垂では赤ちゃんに直接的なリスクは少ないといわれています。しかし臍帯が脱出してしまうと、赤ちゃんへ酸素が届かなくなることから「低酸素性虚血性脳症」になるリスクが高くなります。脳性麻痺やてんかんなどの後遺症や障害が残ったり、赤ちゃんが亡くなることもあるため、臍帯下垂が分かったら早急な処置が必要です。
2) ママのリスク
臍帯下垂・臍帯脱出によるママへのリスクはほとんどありません。しかし赤ちゃんの命を守るためにすぐに帝王切開になるケースが多く、ママは心の準備が整わない状態で手術を受けることになります。そして帝王切開には出血や感染症のリスクが伴います。赤ちゃんへの思い、予期せぬ帝王切開になったことによる心の整理など、術後はママの心と体のケアが大切です。
6. 臍帯下垂・臍帯脱出の診断方法
臍帯下垂や脱出が疑われたら、内診と超音波検査(エコー)で臍帯の血液の流れや臍帯の位置を確認することで診断をします。臍帯が脱出していた場合、子宮の入り口を観察すると肉眼で臍帯を確認することもできます。
臍帯下垂・臍帯脱出は予測できないこともありますが、多胎妊娠や羊水過多などが原因であれば事前に対処することができるでしょう。また臍帯下垂のリスクが高くなるのは妊娠後期から出産にかけてです。ママが自身で気付くことができない臍帯下垂を早期に発見するために、必ず妊婦健診を受けましょう。
7. 対処方法・治療方法とは
臍帯下垂を疑ったら、まず臍帯への圧迫を解除するためにママの体勢を調整します。
①「骨盤高位」 仰向けで腰を高くする
②「胸膝位」 膝を立てた状態でうつぶせになり腰を高く持ち上げる
それでも臍帯への圧迫が続くようであれば、医療者が赤ちゃんの頭を直接持ち上げて臍帯への圧迫解除を試みます。これらの処置をおこなっても赤ちゃんの状態が改善しないときや臍帯脱出をしてしまった場合は、すぐに帝王切開をおこないます。
まとめ:臍帯下垂・臍帯脱出から赤ちゃんの命を守るためにも、妊婦健診は必ず受けよう
臍帯下垂・臍帯脱出は赤ちゃんの命が危険になったり、重い後遺症が残ることもある妊娠中の重大な合併症です。臍帯下垂・臍帯脱出によるリスクが高くなるのは、妊娠後期から出産にかけてです。この時期は妊婦健診の頻度が高く面倒に感じることもあるかもしれませんが、異常の早期発見には妊婦健診での検査しかありません。決められた妊婦健診をしっかり受けて、ママも赤ちゃんも安全なお産を迎えましょう。
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参考文献・参考サイト
1)MSDマニュアル 臍帯脱出
2)日本産婦人科医会 35.羊水過多
3)産科医療補償制度 Ⅱ.臍帯脱出について
この記事の監修
牛丸敬祥 医療法人 ガーデンヒルズウィメンズクリニック院長
経歴
- 昭和48年 国立長崎大学医学部卒業
- 長崎大学病院産婦人科入局。研修医、医員、助手、講師として勤務。
- 産婦人科医療を約13年間の研修。体外受精に関する卵巣のホルモンの電子顕微鏡的研究
- 医療圏組合五島中央病院産婦人科部長、国立病院 嬉野医療センター産婦人科部長
- 長崎市立長崎市民病院産婦人科医長、産科・婦人科うしまるレディースクリニック院長
- 産婦人科の他に麻酔科、小児科の医局での研修
- 産婦人科医になって51年、35,000例以上の出産、28,000例の硬膜外麻酔による無痛分娩を経験しています。